「助けて」といえない子どもたち。妊娠、虐待の危機をアウトリーチが救うー橘ジュン×駒崎弘樹ー

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2017.12.07

Megumi Kikukawa
菊川 恵
NPO Florence

NPO法人フローレンス所属。こども宅食広報担当。(Twitter:megumikikukawa

家にも学校にも、居場所がない子どもたち。

痛ましい事件が起きてはじめて、そんな子どもたちの存在が明らかになることがあります。

今回は、虐待や家出、貧困などの生きづらさを抱える女の子たちに、約10年に渡って寄り添ってきたNPO法人BONDプロジェクトの橘ジュンさんをお招きし、「生きづらさを抱える女の子のリアル」や「子どもたちを守るために支援者ができること」についてお話を伺いました。

NPO法人BONDプロジェクト代表・ルポライター 橘ジュン
2006年街頭の女の子の声を伝えるフリーマガジンVOICESを創刊。2009年には10代20代の生きづらさを抱える女の子たちを支えるNPO法人BONDプロジェクトを設立。虐待、家出、貧困など様々な困難を一人で抱えてしまう女の子に寄り添う「聴く・伝える・繋ぐ」を活動している。

認定NPO法人フローレンス 代表理事 駒崎弘樹
1979年生まれ。日本初の「共済型・訪問型」病児保育サービスを首都圏で開始、共働きやひとり親の子育てをサポート。ほか、小規模保育園、障害児保育園んなどを運営。内閣府「子ども・子育て会議」委員、厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会座長などを務める。2児の父。

 

 

居場所がない女の子たちと支援者の橋渡しを

駒崎:橘さんは、NPO法人BONDプロジェクトで、10代~20代の女の子たちの支援をされていますよね。なぜ、この活動をされるようになったんでしょうか?

:私はもともとライターでして。自分が取材したい女の子に出会いたくて、渋谷や歌舞伎町で気になる子に声をかけて話を聞いていたんです。

その中で「家にも学校にも、居場所がない」という女の子たちと出会ったんですよ。はじめは話を聞いて、それを記事にして伝えていたのですが、続けていくうちに「伝える」だけでは、どうにもできない子と出会ってしまいました。

ある日、支援していた女の子が、駆け込み出産してしまったんです。

女の子は、私には色々話してくれるんですよ。「これが困ってる」とか「こうしていきたい」とか。

だけど、病院や相談員の方のところに連れていくと、ものすごい態度が悪くなってしまって、結局「自分の思い」を言語化できないんです。

だから、私が通訳みたいに「こういう気持ちで、こうしてほしいんだよね」って、病院や相談員の方と女の子の橋渡しをしていました。

その経験を通じて、女の子と大人をつなぐ役割が必要だと思って、自分たちの活動に「BOND(ボンド、つなぐものという意味)」という名前をつけたんです。

駒崎:なるほど。それでBONDなんですね。

:そうなんです。街の女の子の話をじっくり聴いて、その子に合わせた対応を心がけています。

困っている人たちは、相談に行けない

:相談は、メール、電話、面談で受け付けているのですが、大体毎月1,000件くらい相談があるんです。その中には、自分から面談に来れない子もいます。そういう子には、私たちが出向いてお話を聞きます。

まずは、こちらからアプローチして、少しずつ関係性を作ることから始めます。その後、何かできることを一緒に考える。その子にとって、一番ふさわしい人につなぐように心がけていますね。

駒崎:なるほど。まさにソーシャルワークですね。

:いろんな女の子の話を聞いていて思うのは、行政機関や支援団体など、相談できる窓口があるにも関わらず、困っている子たちって、本当に相談に行けないんだということです。

未成年での予期せぬ妊娠や虐待など、抱えていることは深刻なんです。誰かに相談して、一緒に考えてもらわなきゃいけないのに、誰にも相談できないんだって思ったんです。

駒崎:それだけ自ら声をあげるということは、ハードルの高いことなんですね。橘さんが、一人ひとり真摯に話を聞いてきたからこそ、街に流れ着いた女の子たちの声なき声を届けることができたんだと思います。

リストカットに隠されたSOS

駒崎:声をあげられないからこそ、問題が見えづらくなっているケースもありますよね。例えば性暴力では、特にその傾向が強いように思います。

:そうですね。性暴力の場合、「逃げられない自分が悪い」と思っている子もいて、表面化されにくいんです。

例えば、ある中学生の子は、小さい時からお父さんに性的虐待をされていて。

ある程度の年齢になって「自分はほかの家庭とは違う」ということを知ると、リストカットするようになったんです。それも彼女のSOSだったんだけど、周りの大人は気づいてくれなかった。

:結局、その子は学校の窓から飛び降りたんです。それでようやく福祉に繋がりました。

駒崎:え?リストカットの傷痕があるのに、学校の窓から飛び降りるまで福祉に繋がらなかったんですか?

:そうなんです。加害者である父親も、学校の先生の前では普通なわけですよ。女の子が勇気を出して伝えても、信じてもらえなかったんです。「まさか、あのお父さんが」と。

「嫌だ」「つらい」「誰にも言えない」そんなぐちゃぐちゃな思いを、傷にしてたんだと思います。でも、学校の先生は、「死なない程度にね?」としか言わなかったんです。

「明らかに困っている人」じゃないと、支援されづらい

駒崎:そんな……。言葉を失いました。学校はどうして、もっと早く介入できなかったのでしょうか?

:やはり「気づけない」ということですよね。その子は、傷つきすぎて普通の子と同じようには過ごせない。

それが、学校からしてみれば、問題行動を起こす子に見えてしまうんです。だから、お父さんじゃなくて「その子自身に問題がある」って捉えられてしまったんです。

駒崎:そこまでして、ようやく福祉に繋がるなんて……。もはや命がけですよね。

:そうですね。明らかに困っている人じゃないと、サポートが受けられないのが課題だと思います。

 

サポートする側が歩み寄る「アウトリーチ」の必要性

駒崎:誰から見てもかわいそうだと認められる人じゃないと、サポートしてはダメなのか?という話ですよね。

本当に困っている人に手を差し伸べることも大切ですが、性暴力も子どもの貧困も、未然に防ぐための仕組みがないといけないと思います。

「来週、相談に来てください」ではダメですよね。これからは、サポートする側が自ら足を運んで「アウトリーチ」していくことが必要になると思います。

:本当にそう思います。本当に困っている人には、待っていても出会えない。

事件や事故に巻き込まれる前に、守ってあげなきゃいけないんですよね。だから、こちらから出会いに行って、必要なサポートに繋ぐ役目も必要だと思っています。

フローレンスが関わっている「こども宅食」という取り組みもその一つですよね。

駒崎:そうですね。「こども宅食」では、文京区と非営利団体、企業と協力して、経済的に厳しい家庭に食品を届けています。

食品を配送するときに、「お母さん、最近寒い日が続きますが、体調を崩されていませんか?」という何気ない会話から関係性を築く。

そして、そのご家庭が何か困りごとを抱えている時には、必要とするサポートを一緒に探していくことを目指しています。

食品はあくまでもきっかけで、本当に大切にしているのは家庭とつながることなんです。

こども宅食で家庭を訪問したことをきっかけに、「実は私……」とご家庭の話をしてくださる方もいますね。

支援にアクセスしやすい仕掛けをつくる

:私たちのところに相談に来る女の子たちもそうですが、「こども宅食」に申し込んだ人の中にも、「困っていても、誰にも相談できなかった人たち」もたくさんいると思います。

今まで相談できなかった人たちが、アクセスしやすい仕組みも必要ですよね。

駒崎:本当にそう思います。「こども宅食」ではコミュニケーションツールの一つとして、LINEを活用しているんですよ。

初年度は、150世帯を支援の対象にしていたのですが、LINEで手軽に申込みができることもあり、当初の予想の3倍の450世帯から申込みが来たんです。

:いいですね。難しい書類を書くこともなく、すぐにアクセスできるから一歩踏み出せたんでしょうね。

また、食品を届けるという、家庭に喜んでもらえるアプローチを取っているのもいいですね。

私たちも、女の子たちと関わる時には、「喜んでもらう」ということを大切にしています。同情したくないんですよ。

今は困っているというだけで、元々はいろんなパワーを持ってる子たちなんです。

彼女たちの「生きる力」は信じつつ、一つひとつできることからサポートしていく。これからの人生を含めて応援していきたいと思っていますね。

駒崎:橘さんからは相談してきてくれた女の子たちへの愛を感じますね。我々もそれぞれのご家庭に寄り添ったサポートをしていこうと思います。

橘さん、今日はありがとうございました。

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