こども食堂・こども宅食で見えてきた「黄色信号の子ども」とは?ー湯浅誠×駒崎弘樹ー

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2019.12.03

こども宅食事務局

こども宅食事務局が、こども宅食の歩みや、子どもの貧困についてのニュースをお届けします!

経済的に厳しい子育て世帯に、食品などを届けるこども宅食。2017年に文京区でスタートし、日本中に拡がっています。7人に1人の子どもが貧困と言われる今、食をきっかけにどのように支援につなげるか。

貧困問題に長く向き合い、こども食堂の支援に取り組む湯浅誠さんと、こども宅食に取り組む駒崎弘樹が意見を交わしました。( 取材、文:そのべゆういち )

NPO法人フローレンス 代表理事。病児保育や、小規模保育園、障害児保育園などを手がける。内閣府「子ども・子育て会議」委員などを務める。駒崎弘樹

社会活動家。東京大学先端科学技術研究センター特任教授。全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長。

湯浅誠

「貧困の黄信号」の子どもたち

湯浅:こども食堂には、地域交流拠点としての側面と、子どもの貧困対策としての側面があります。

子どもたちに無償もしくは安価で食事を提供しているので、経済的に厳しい家庭の子も来られる。そしてその子たちの「居場所」となれる、という役割があります。

日本では、7人に1人の子どもが貧困と言われています。しかし実態を見ると、生きるか死ぬかほど切迫した「貧困の赤信号の子」よりも、一見すると貧困に苦しんでいるとわからない「黄信号の子」が非常に多い。この黄信号の子どもたちに向けた対策を講じないといけません。

駒崎:同感です。こども宅食の配達に伺ったご家庭の話なのですが、小ぎれいなマンションに住んでいるのに、ドア越しに部屋を見ると、家具がほとんどない。

会話の中で、お子さんを塾に通わせるため、親御さんが2食抜いて学費を捻出していることがわかり、驚きました。時間をかけて話さないと、苦しみはつかめない。

湯浅:黄信号の子どもたちに気づくには、彼らと話す場所、接点をつくる必要があります。このときに、こども食堂が持つ「居場所」としての役割が重要です

黄信号の子どもたちは、見た目は他の子たちとまったく変わらない。だから気づかれにくいのですが、お金に困っていない子どもたちと異なる言動をすることがあります。

たとえば、「お金がいくらかかるかを気にする」「家計を心配して、部活に入らない」。小さい頃から、家の経済状況を気にしていることがあります。「これは、お金に苦労している親に頼んでいいことだろうか」といちいち考えているわけです。

赤信号の子どもであれば、児童相談所が引き取るといった個別の支援が適切です。一方で、黄信号の子どもはそもそも判別しにくいので、支援が遅れがちです。

こども食堂を「地域のお祭り」のような場へ

駒崎:支援を受けるには、役所の窓口に行って、「助けて」と言わないといけない。これが大きな壁になっています。自分たちが経済的に苦しいことを周りに知られたくないと思い、助けを求めないケースもある。

だからこそ、こども宅食では、親御さんとお子さんの心情に配慮し、周囲からはそれとわからないように配達しています。

湯浅:こども食堂でも、「貧困家庭のためのもの」という意図せず定着したネガティブなイメージを和らげる施策が求められます。そう受け取られると、「あそこに行く子は……」という目で見られ、黄信号の子たちも行きづらくなってしまう。

私がこども食堂に関わり始めたのは、2016年。当時は「こども食堂ってなに?」という人が多かったですが、2019年10月の調査結果では約8割が「知っている」と回答しています。認知度がは確実に上がりました。

一方で、「実際にこども食堂を利用したことがある」人は1割にも届きません。背景には、「こども食堂は、経済的に困った子が行く場所」というネガティブなイメージが定着したことが考えられます。

駒崎:すでに何らかのアプローチはされたんですか?。

湯浅:ひとつが、「食べる・遊ぶ・笑う こども食堂」という取り組みです。全国47都道府県を回り、こども食堂の魅力をひとりでも多くの人に知ってもらおうという活動です。これまでに山口県や鹿児島県、東京都で実施しました。

駒崎:おお、明るくていいネーミングですね!

湯浅:東京おもちゃ美術館さんと協力し、おもちゃコンサルタントやお笑い芸人を招いています。

こども食堂を「地域のお祭り」のような場にしたいんですね。お祭りって、近所の人が気軽に来て、楽しい時間を過ごしますよね?そんな空間をイメージしています。

イメージを払拭しながら、数も増やしたい。2019年時点で、全国にこども食堂は約3,700箇所あります。私は20,000箇所を目標としています。だいたい年間で1,400箇所が新設されていて、すごいペースで増えています。それでも、20,000箇所に達するまでには12年かかってしまう。この期間を半分に短縮したい。

保育園を近所に開放し、地域のコミュニティスペースにする!?

駒崎:保育園を利用するのはどうでしょうか。フローレンスでは「ほいくえんこども食堂」という取り組みを今年からはじめています。

保育園は法令上、調理場が必ずあります。それに、子どもたちが安全に遊べる空間がすでにある。こども食堂との相性がとても良いんですね。

しかも、認可保育園は全国に約40,000箇所あります。今後、保育園とこども食堂が協力できれば、場所の問題は解決しそうな気がしますね。

湯浅:保育園、いいですね〜。園児の保育目的以外で使うのは法律上問題はないの?

駒崎:運営者の理解があれば、法律上は問題ないんですよ。おっしゃる通り、保育園は園児を保育する場所として機能していますが、地域の子どもたちをケアする拠点であってもいいと思うんですね。

そこは、「黄信号」の子どもたちの存在に気づく場になるかもしれません。できるだけ早い段階で、親御さんや子どもたちが抱える苦しみに気づき、手を差し伸べることが何よりも大切です。

湯浅:そう。生活が立ちゆかなくなり、余裕がなくなってしまう前にケアできるのがベストです。火災が発生してからの消火活動は大ごと、火災報知器を設置して火事を防ぐほうがいい

黄信号の子どもたちの苦しみに早く気がつき、適切な援助ができるか。これにつきます。

子どもの地域包括ケアシステムがなぜないのか

駒崎:親や子どもたちと接点を持とうとするとき、「食」は素晴らしいフック。役所の人が突然家にやってきて「最近どうですか?」と聞いてきたら、身構えてしまう。

でも、食べ物があるとドアを開けてもらいやすい。なんだか、親近感を持ちますよね。

湯浅:そうですね。こども宅食も、こども食堂も「食」をきっかけにして、子どもが抱える苦しみに気付こうとする点は一緒ですよね。

駒崎:こうしてね、湯浅さんとお話しすると、我々が目指すのは、「地域の親子支援センター」のような機能をつくることなのではないかと感じます。

こども宅食ではLINEで申し込みができるので、その後もLINEでつながりを持てる。社会から切り離されたと感じにくくなっています

湯浅さんが目指しているこども食堂は、子どもに限らず大人やお年寄りも来られる場ですよね?そこでは、自然とつながりが生まれて、子どもたちが発するSOSに早く気がつける。

すでに高齢者向けには、地域包括ケアシステムがある。でも、子育てには支援の仕組みがまだまだ少ない。子どもの地域包括ケアがなぜないのか不思議です。

湯浅:長い間、社会保障に子どもが入ってこなかったツケをいま払っているわけですね。子ども向けサービスのケアマネージャーはいないですし、高齢者支援と比べると、隔たりを感じます

地域の子どもたちを、地域の大人が支える社会へ

駒崎:1年間に生まれる子どもの数が90万人を下回り、少子化が加速しています。子どもたちへのケアが不十分だった。

それに、問題は少子化ではなく、少母化なんですよね。子どもを産めるお母さんの数が減っているから、少子化問題はすぐには解決しません。

とはいえ、国も子ども支援への財源をすぐに確保するのは難しい。だったら、我々のような民間団体が子どもたちへのサポートを充実させる活動を続けていくしかない。

10年後、15年後に子育てをめぐる環境が良くなり、「地域子ども包括ケア」のような制度づくりを目指して行動を重ねていく。そう考えています。

湯浅:素晴らしいですね、同感です!

駒崎大きな挑戦ではあるのですが、壮大な社会実験だと僕は思っています。

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