音楽でひとり親家庭は救えるか?日本フィルが「0円」でコンサートに招待する意味

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2018.12.21

Gaku Yamazaki
山崎 岳
NPO Florence

1992年生まれ。NPO法人フローレンスでこども宅食の企画推進とWEB回りを担当(Twitter:gakkun87

勤労感謝の日、渋谷にあるオーチャードホールで、日本フィルハーモニー交響楽団(以下、日本フィル)が奏でるチャイコフスキーを堪能してきました。

子どもの貧困問題に取り組む事業のブログで、いきなりなんの話か。

先日、日本フィルさんがクラウドファンディングを行い、ひとり親家庭の親子420名を無料でフルオーケストラの演奏会に招待しました。この演奏会にこども宅食の利用者も招待されたので、その立会いで伺ったのです。

日本の子どもの貧困は、貧困そのものというよりは、機会が制限され、その格差が、子どもを苦しめているというのが実態です。こども宅食としても調査を行いましたが、貧困が要因で、様々な機会の制限があることが分かり、今回のような取り組みは本当にありがたいことです。

しかし、オーケストラってとても敷居が高く、貧困とは遠い所にあるような気がしませんか?

それこそ、パンが食べられない人に、「ケーキを食べれば…?」と言っているような。

なぜ日本フィルさんが今回のプロジェクトを実施したのかが知りたくて、企画した山岸さんにお話を伺ってきました。山岸さんは、「音楽って、期せずして、いろいろな人の人生に触れてしまうことがあるんです」といいます。

山岸淳子

公益財団法人日本フィルハーモニー交響楽団マネジメントスタッフ。『ドラッカーとオーケストラの組織論』(PHP新書)著者。

山岸:日本フィルは、「オーケストラ・コンサート」「エデュケーション」「リージョナル・アクティビティ(地域活動)」を活動の3本柱に掲げています。楽団員は、サラリーマンのように年間270日くらいの稼働があり、年間150回のオーケストラ・コンサートをこなしながら、その他の活動もしています。

地域活動の一つとして、阪神のときも、被災地に音楽を届けました。東北では震災直後から現在も音楽を届ける活動を継続中です。「音楽でできることをしたい。音楽家として行動しよう」という気持ちがあって。

実は、日本フィルの給料って決して高くないんです。演奏自体はボランティアで始めましたが、経費を自分たちで賄えなかった。だから、演奏会場に募金箱を置いたりしていました。今回の取り組みも「音楽でできることをしたい」という考えの根っこは同じで。

1975年にスタートした「夏休みコンサート」という取り組みがあります。子ども達に家族いっしょでオーケストラを楽しんでもらうのですが、良い時間を過ごしてくれているな、という手応えがありました。

でも、会場でよくみていると、コンサートに親子4人で来ているのに、親御さんだけ外で待っているような方を見かけたりします。チケット代を節約しているのかな、せっかくなら一緒に演奏を聞いてほしいのに…など想像すると、音楽が生活の中に必要な人は誰だろう、と思うようになりました。そういった方にこそ音楽を届けるべきじゃないかと。

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山岸さんに、手応えは?と聞くと「私個人としては手応えとかはないです。別に私のためにやったわけではないので。」とクール。しかし、来場者から届いたアンケート用紙をなぞりながらこう続けます。

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山岸:私、それぞれのご家庭のことを考えちゃうんですよね。こういう感想をくださるっていうことの背景に何があるんだろう…?みたいに。

「夏休みコンサート」に届いたアンケートに、「親子で来ています。子どもが大病ですぐ入院することになっています。元気になったらまた来年来ます」と。

ずっと気になっていて…。翌年来てないんですよ、そのご家庭。でもアンケートなのでお手紙を送ったりできないじゃないですか。そういう経験がすごいあって。

震災の時のコンサートで、避難所のお世話をする自治体の職員さんが、彼女自身も被災者なんですけれども。お世話する立場なので二重にも三重にも、感情を閉じ込めて一生懸命頑張っていました。

彼女がコンサートのコーディネートもしてくださって、演奏が終わった後、2時間くらいずっとお話をしてくださいました。最初は、避難をしているそれぞれの方の話、でも最後の最後にご自身がつらい思いをした話が出てきました。演奏を届けたことで、彼女が閉じ込めていた感情の蓋が、開いてしまった

音楽って、すごい力があるんです。音楽のそばにいると、結構いろんな人の人生に、期せずして触れてしまうことがたくさんあって。重いなと言うか、ありがたいと言うか、音楽って何なんだろうといつも考えます。

厳しい生活の中、音楽が身近にない、そういった人に音楽を届けることで苦しさの質も変わるかもしれない。音楽で心の状態をグッと変えることで、生活にもいい変化が出るかもしれない。

音楽にはそういうすごい力があると思っています。日本フィルがお届けする音楽が何かを変えるきっかけになればいいなと。おこがましいんですけども。

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普段、僕たちが現場で活動していると、家庭に不足しているものや、課題から、解決策を積み上げていきます。日本フィルさんのアプローチはちょっと違ったんです。僕たちは、パンを食べられない人に、パンをあげようとする。でも、ケーキを届けたら、とっても美味しくて、悲しいことも吹き飛んでしまう、そんなイメージです。この人達は、音楽の力を確信していて、音楽が人の未来を一変させてしまうことを知っている。

だからこそ、音楽を届けるんだなと。

実は今、日本フィルさんは、第2弾のプロジェクトを実施しています。今後の展望についても伺いました。

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山岸:落合陽一さんと、テクノロジーを活用して聴覚障害の方を対象にしたコンサートを企画した時、このコンサートが障害者支援なのか、芸術なのか、立ち位置に悩みました。

国の助成でも、障害者の芸術鑑賞のサポートするシステムは厚生労働省と文化庁の両方にあります。日本フィルは文化庁のほうだろうと思って。福祉の立場で障害者支援に取り組んでいる方の取組も素晴らしい。でも、だからこそ、音楽家として、という別の立場から社会に対してやれることをやりたい、と。

今回のひとり親家庭をご招待するにあたってもセンシティブな問題がたくさんあると思いましたが、福祉の専門家の方のアドバイスを頂き、一緒にやることで、この取り組みが成功しました。

そして、一回きりではなく、持続的に取り組んでいきたいと思っています。実は、オーケストラのコンサートのチケット代金って、いわゆるビジネスの採算価格の1/3くらいの値段なんです。ですので日本フィルが無料でチケットを配るだけなら、この規模の取組は到底出来なかったのですが、今回はクラウドファンディングでチケット代のサポートを頂く仕組みを取り入れることで、成功させることが出来ました。

同僚が今回の取組をとても喜んでくれて。うちのスタッフが、クラウドファンディングに申し込みをしていたんです。本当にそれは、嬉しかったですね。

みんなわかってるんでしょうね、音楽を届けることの喜びを。

音楽の力を確信している日本フィルさんのお話を聞き、こども宅食が日本フィルさんと一緒に届けた音楽が、ひとり親家庭の生活を、グッとあげていたら、と思わずにはいられませんでした。

いや、あげているに違いない。そう確信したインタビューでした。

こども宅食では、演奏会へのご招待のように、さまざまな方にご協力いただき、ご家庭に必要な機会をお届けしています。

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