子どもの貧困を断ち切りたい
「食」に関わる支援の広がりと3つの課題
日本では、約9人に1人の子どもが貧困状態にあると言われています(厚生労働省「2022年 国民生活基礎調査の概況」)。貧困というと、「住む場所がない」「食べるものがない」など最低限の生活すら営めない状態=「絶対的貧困」を想像されるかもしれませんが、日本における貧困とは絶対的貧困ではなく、平均的な世帯に比べて生活に使えるお金が半分以下である状態「相対的貧困」を意味しています。
衣食住はかろうじて満たすことができるものの、満足の行く食事や教育を受けることができない、つまり一般的な家庭で普通にできることをなかなか実現することができないのです。
子どもの貧困の現状
■物価高が子育て世帯の生活を圧迫
加えて、近年は物価上昇の影響により食費や生活費の負担が増し、多くのご家庭に影響が出ています。
総務省統計局が発表する最新の消費者物価指数(全国 2025年11月分)では、2025年11月は前年同月比で約2.9%上昇し、また2020年からは約13%上昇しています(※1)。実際子育て世帯を対象としたアンケート調査(※2)では、子育て世帯の9割以上が「物価高の影響を感じている」と回答しており、家計への負担が増えたことを多くのご家庭が実感しています。また、約89%のご家庭で食費の増加を実感しているという結果も出ています。
※1 総務省統計局 2020年基準 消費者物価指数 全国 2025年(令和7年)11月分《ポイント》部分参照
※2 ライフネット生命保険株式会社調べ「子育て世帯における物価上昇と食費に関するアンケート調査」(2025)

■「十分な量の食事がとれていない」子どもが増加
また別の調査(※3)では、「朝食」「長期期間中など給食がない期間の昼食」「夕食」について子どもが十分な量の食事を取れていないという回答が、2024年度の調査と比較していずれも8%以上増加し、日常的な食生活が昨年より悪化している現状が懸念される結果となっています。
また、十分にとれていないと回答した方の8割以上が「体調を崩しやすい」「集中力の低下」「イライラする」など、子どもの成長や心身の健康状態にマイナスの影響を感じていることがわかりました(※3)。
加えて、3食きちんと食べられていないことから生じる栄養不足により、疲労が抜けず集中力が低下するなどの悪影響が生じており、これらが積み重なることで結果的に学力の低下を招くことも考えられます。
※3 2025年7月公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン「経済的に困難な子育て世帯の子ども1.4万人の食と生活の実態調査報告書」8、9ページ参照

子どもへの「食」に関わる支援の広がり
このような状況を受け、地域や企業、支援団体などによる子どもたちへの食に関わる支援の輪は全国で広がっています。
■広がる「こども食堂」と「こども宅食」
子どもだけでも参加でき、無料、または少額で食事ができる「こども食堂」。全国各地で1万箇所を超え、参加人数も年々増加しています(※4)。
単に子どもたちに食事を提供するだけでなく、保護者や高齢者など、その地域に住む様々な世代の方がともに集い、交流する場所としても注目を集めています。また子どもたちの孤立を防ぐための居場所づくりや学習支援を行うなど、様々な役割を果たす場としても機能しています。
※4参照 こども食堂数が日本で初めて10000箇所を超え、公立中学校数を上回る「1万866箇所」に~2024年12月 こども食堂全国箇所調査(速報値)~

また「こども宅食」は、ご家庭に食品や日用品を定期的に届けるアウトリーチ型の支援です。単に食品を届けるだけでなく、食品のお届けをきっかけにご家庭との関係性を築き、困っている親子を孤立させないことを目的としています。
多様な自治体や地域団体によって導入され、取り組みが全国に広がっており、2024年には全国47都道府県での実施を達成しました(※5)。
※5参照 「こども宅食」全国47都道府県で実施達成! 「孤立を生まない社会」を、全国の地域の皆さんと一緒につくります

■企業×企業、企業×自治体による新たな支援
その他にも、夏休みの期間中、地域の飲食店や大手チェーン店と連携して子どもたちへ食事を無償提供する取り組みや、企業が行政や地域団体と連携し、食品ロス削減の取り組みと組み合わせながら支援を行う動き(規格外の食品や余剰在庫品のこども食堂への寄付など)も見られます。
企業同士、企業と地域団体との連携など様々な形で子どもたちの食を支える活動がさかんになっています。
今後の課題
経済的に厳しいご家庭や子どもたちへの支援の広がりが見られる一方で、助けを必要としている全てのご家庭に十分な支援が届いているわけではありません。そこには主に3つの大きな課題が存在しています。
①継続性、安定性の確保
たった一度の支援では、ご家庭が抱える根本的な課題の真の解決には繋がりません。そして、支援が途切れることは単に「食費が再び家計を圧迫する」といった物理的な問題に留まらないのです。
「また今月も助けてもらえるだろうか」「次はいつ助けてもらえるのか」という“先が見えない不安”は、利用者の心に重くのしかかることになります。支援の継続性、安定性は子育て世帯の日々の安心感を支えるために欠かすことができない土台と言えるでしょう。
②支援を必要としている家庭への届きにくさ
子どもへの食に関わる支援が広がる一方で、本当に必要としている家庭に届いていないという現実もあります。「制度や情報を知らない」「申請が難しい」、または「周りに知られたくない」「恥ずかしい」などの理由で必要なサポートが受けられないケースも少なくありません。
また、ひとり親家庭や小さなお子さんのいるご家庭は外出が難しく、来所して手続きを行わなければならない支援には申請しにくい、自ら出向く支援の集まりには参加しにくいという状況があります。
困難な状況にあるご家庭ほど、声を上げる余裕がありません。本当に助けが必要な家庭にも支援が行き届くよう、支援の量だけでなく、届け方そのものの一歩進んだ工夫が求められているのです。
③人手不足、資金不足
こども食堂、フードパントリー、こども宅食など、多くの取り組みが少人数のスタッフやボランティアによって支えられていますが、慢性的な人手不足が続いています。食品の仕訳、梱包、配送、利用者への対応、事務作業などそのひとつひとつに時間と労力がかかり、支援のニーズが増えるほど、現場で必要となる資源も大きくなっていきます。
また同時に、物価高騰により食品、配送費、運営費が上昇し、活動を維持するための資金も不足しています。人手や資金が不足すると、開催・実施回数を減らしたり、支援の対象を絞らざるを得なくなり、本来支えが必要な家庭に十分な支援が行き届かなくなります。支援を続ける人たち、団体自身が無理なく携わることができる環境を整えること、つまり人手と資金の両面を支える安定した財源を整備することが、結果的に子どもたちの未来を守ることにつながるのです。

支援のその先へ 文京区こども宅食が目指すもの
子どもへの食に関わる支援は、いまや「一部の特別なご家庭」を対象とする活動ではありません。度重なる物価高や先行きの見えない生活への不安が広がる現代社会において、多くの親子の生活と安心を支える極めて重要な役割を担っています。
しかしその現場は、継続性や安定性の確保、本当に支援が必要なご家庭に支援を届けることの難しさ(アウトリーチの困難さ)、そして深刻な人手・資金不足といった、根深い課題に直面しています。これらは、現場の熱意や努力だけでは解決できない社会全体の構造的な課題へと移行しています。
子どもたちの今日の食事を守ることは、親子の明日の安心を守ること、ひいては未来の可能性を守ることにつながります。だからこそ、食に関わる支援は一部の団体や個人による一時的な取り組みで終わらせず、社会全体で支え、育んでいく「持続可能な仕組み」として確立していく必要があります。

わたしたち文京区こども宅食は、2017年から全国に先駆けてこども宅食事業を開始し、「子どもの貧困」問題に取り組んでいます。経済的に厳しい状況にあるご家庭に対し、栄養バランスも考慮した食品や日用品を定期的にご自宅へお届けしています。
「定期的」であることによって、ご家庭は食費の負担が軽減されるだけでなく、「また次もある」という安心感と心のゆとりを提供することができます。
また、この取り組みはご家庭を「待つ」従来の支援ではなく、こちらから「届けに行く」アウトリーチ型の支援であることが大きな特徴です。この定期配送を通じてご家庭との信頼関係を築きながら、孤立しがちな親子を見守り、潜在的なSOSを早期にキャッチできるようにしています。従来の支援では繋がりを持つことが難しかったご家庭にも、支援が届きやすい仕組みを実現しています。
そして、活動の土台を支えているのが、官民7団体がパートナーシップを組み、互いの強みを活かした形で支援を実践している点です。行政、NPO、企業が連携することで、事業運営をより円滑にし、持続可能な支援体制を目指しています。
わたしたちは、これからもすべての子どもたちが健康で生き生きとした毎日を過ごせる社会を目指し、活動を続けていきます。
文京区こども宅食はふるさと納税による寄付を原資として活動しています!
文京区こども宅食の活動は、活動を応援してくださっている皆さんからのご寄付(ふるさと納税によるガバメントクラウドファンディング)で成り立っています。
配送する食品や日用品の多くは企業や団体からの寄付によるものですが、追加の食料購入費や配送費、活動費等が必要となります。皆さんからお寄せいただいたふるさと納税は、こうした活動費用に充てています。
皆さんのご寄付が、子どもたちや子育て家庭の力になります。今後も多くのご家庭にこども宅食をお届けできるよう、皆さんのご支援をよろしくお願いいたします。











