タピオカと着ぐるみを活用したアウトリーチ?~未来の福祉を考える~ー荒井和樹×駒崎弘樹ー
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2019.12.12
2017年に文京区でスタートしたこども宅食。経済的に厳しい子育て世帯に、定期的に食品を配送しながら、家庭の困りごとを発見する「出張(でば)っていく福祉」(=アウトリーチ)を目指しています。一方、名古屋にも「アウトリーチ」を目的に、2012年から、駅前で着ぐるみを着て若者に声をかける「全国こども福祉センター」という団体があります。
今回はアウトリーチの先駆者である同センター創設者の荒井和樹さんに、こども宅食の駒崎弘樹がお話を伺いました。
元児童養護施設職員。全国こども福祉センターを立ち上げ。近著に『子ども若者が創るアウトリーチ-支援を前提としない新しい子ども家庭福祉』(アイ・エスエヌ)。
全国こども福祉センターについて
2012年から名古屋を拠点に子どもたちによる、子どもたちのためのアウトリーチ活動を行う。着ぐるみを使った駅前での街頭募金・声かけのほか、若者向けのスポーツイベントなどを主催。支援が必要(もしくは必要となる手前の状況)だが、その情報が届いていない子ども・若者との接点を多く持つ。
*アウトリーチとは?
「支援が必要にもかかわらず、それを望まない、受けられない対象者に対し、支援(情報)を届ける手法(スキル)」(全国こども福祉センターHPより)
「消費しきれないほどの支援」と「つながっていない子どもたち」
駒崎:荒井さんの近著を読み、実践者でありながら研究者であるという姿勢に感銘を受けました。この活動を始めたきっかけを教えてください。
荒井:僕は大学を卒業後、児童養護施設で働いていました。そこには、たくさんの寄付が集まり、ボランティアや実習生もひっきりなしに来ていました。施設には消費しきれないほどの「支援」がありました。
一方、繁華街やSNSなど施設の外で出会う子どもたちは、同様の問題を抱えていても、保護未満とされ、「支援」につながっていませんでした。対話をしていくと支援機関に対する拒否感やネガティブな印象を抱いていることがわかりました。
荒井:社会福祉士や保育士などの専門職は、虐待を予防するよりも施設や窓口で子どもからの相談を待つ、要保護児童を受け入れることが業務の中心となっています。
福祉の専門家も、制度化されて、給料がもらえる業務内容に集中する。問題が深刻化するまで様子を見て、保護。関係修復困難な状態で、家庭に戻す。――果たして、これが根本的な解決になっているんだろうか?と疑問で。
そこで、子どもたちが実際にいる現場まで専門職が出向いていく必要性を感じました。
駒崎:そうして、仲間を集めて、駅前で着ぐるみを着て若者に声をかけるようになったんですね。このスタイルにたどり着いた経緯を教えていただけますか?
ヒントは学生団体や風俗業界から
荒井:名古屋駅前ではもともと、学生団体や風俗業界のキャッチが子ども・若者と接触していました。一方、福祉の専門職の人たちは1人もいない。だったら、専門職が駅前に出たらよいのでは、と考えました。
駒崎:社会課題は駅前で起きていて、そのヒントは学生団体や風俗業界といった非専門的なクラスターの人たちから学んだということですね。
「大学に行きたい」
駒崎:アウトリーチだからこそできたな…と思うエピソードを教えてください。
荒井:一番嬉しかったのは、小中学校にほとんど行ってない、中学校は1日も行ってないと言っていた子のケースですね。
初めて出会ったのは名古屋駅前。その後、活動に参加してくれるようになり、ゆっくり、自分の家庭の事情を教えてくれるようになりました。
ある日、学生同士が会話してる中で、その子がポロッと「私、学校行ってない」と言ったんです。
それからしばらくして、「大学生メンバーの言ってることを理解したいから大学行きたい」って言い始めたんですね。
その時初めて、前向きな目標が生まれた。大人が「高校に行ったらどう?」とか「将来困るよ」みたいな説教をせずとも、自然とその子自身が「大学生が話していることを理解したいから大学に行きたい」って思えたことがすごく嬉しかったです。
駒崎:おお~!嬉しいですね。内発的にそれを思うようになってくれたっていうのは、とても本質的ですね。
みんな「仲間」がほしい
駒崎:荒井さんの活動は、仲間になって交流して、活動を一緒にやる中で、自分自身で気づく。先ほどの中学生の例のように、自分で気づいて自分で踏み出すことがゴールということですよね。
荒井:はい。それを後押ししてくれる仲間づくり、人間関係づくりのサポートをしてこなかったのが、これまでの福祉の弱点だったと思っています。
駒崎:確かに、行政の窓口で「じゃあ、人間関係を作りましょう」と言われることはないですし、言われてできることでもないですね(笑)
荒井:家に帰って誰もいない、頼れる友だちもいないと、どれだけ質の高い支援につないだとしても、本人が生きる希望を見いだせないのでは、というのは強く感じます。
困っている人は「友だちになってほしい」という思いがあると思うんですよね。本当にわずかな人間関係しかない人たちにとっては「はい、支援は終了したから終わり」で切れる関係がしんどいと思うのです。
駒崎:確かに、支援者ー被支援者構造になると、いわゆる友人関係や仲間のような人間関係にはならないですね。これが福祉の専門家がなかなか超えられない壁ですね。
荒井:もう1点、地方で実践していて感じるのは、自分が困っていることが地域中の関係者に共有されてしまって、その「弱者」のレッテルがカーストのように根強く残ってしまうことを恐れてるということ。
駒崎:なるほど。こども食堂のような場所に行きづらい人たちが、どこの支援機関ともつながりたくない背景はそこにもあるのかもしれませんね。だからこそ「支援される側」としてではなく、ふつうに、人としてつながることを求めているんですね。
毎週3時間でつながった子どもたち、その数、年間2000人以上
駒崎:今、荒井さんたちが年間のべ2000人と接しているというのは、すごい規模だと思います。それを何の制度も使わずにやっている。
荒井:そうですね。今ある制度や資源につなぐためのアウトリーチであれば、つなぐことでお金が発生しますので、一定のビジネスモデルが成り立ちます。
ただ、今ある制度や資源をつなぐことを目指さず、制度の利用を最小限に抑えることを目指すアウトリーチには予算がつかない。行政との連携や制度利用が多い方が評価されるので、つなぐことが目的となり、本人の意向は軽視されてしまう。
駒崎:荒井さんの著書にも書かれていたように、例えば精神福祉の世界では、アウトリーチして病院に連れてきたら、診療報酬が発生する。アウトリーチが施設モデルの補完になっていて、結果として、対象者がその地域で自立して住むことが阻害されている。
荒井:電話がかかってきてから問題がありそうな家庭に訪問するというタイプのアウトリーチを各行政がやっていますが、時間をものすごく取られるので、あまり多くの件数を対応できていない。
一方、僕らが外に出る時間は毎週たったの3時間ですが、年間2000人以上の子ども・若者と繋がれています。そういった出会いを多くの子どもたちに与えられるチャンスを広くできる機会と捉えて、どんどん投資していただきたいと思いますね。
タピオカ飲みながらJKと話すみたいな未来像
駒崎:もう1点、荒井さんは著書で「アウトリーチ」という概念が福祉の教科書に入っていない問題を指摘されていますね。
荒井:そうですね。専門職養成課程で、特に保育士、社会福祉士が「アウトリーチ」について学んでいない。「施設での活動」が前提になってしまっています。
駒崎:個人がそれを越境することは、難しいですよね。
荒井:本当にもったいないなぁ…と思いますね。路上やカフェなど、もっと気軽に入りやすい場所で、若者と一緒に食事をとりながら、タピオカでも飲みながらいろんな話ができる。困り事だけじゃなくて…という、そういう場所があるともっといいなぁと思います。
駒崎:タピオカ飲みながら、支援する人とJKが話しているという未来像は、カジュアルでイメージ湧きますね。
荒井:曖昧さとかカジュアルさはビジネスではいろいろな領域にまたがってやっているのに、福祉ではそれが進んでない。歯がゆいと思ってる専門家の方も多いと思います。
でも、それを後押ししてくれる制度などがないと、みんな一歩が踏み出せない。そこが今の課題だと思います。
キーワードは「出会い」
駒崎:今日は話していて「アウトリーチ黎明期」だなと強く思いました。これからもっとアウトリーチをする人が増えて、それこそ、タピオカ屋に並んでたら、隣で話してた人が相談に乗ってくれるくらいの感覚で支援がある状態になったら良いなぁと感じましたが、どうでしょうか?
荒井:はい、キーワードは「出会い」ですね。福祉や支援に関わる人がどれだけ増えても、その人たちと支援を必要とする人が出会えないと意味がない。さらに、支援者同士も縦割りでなく、横に横断するような動きを増やして、お互いに連携してサービスを届けるべき人たちにつないでいくようになりたい。しかも、コンピュータが苦手な人でも使えるような仕組みで…予防的な取り組みに投資していくと良いと思います。
駒崎:そうですよね。アウトリーチに適する制度を、アウトリーチャーたちで考案し、ぜひ政策提言していきましょう、一緒に!
荒井:ぜひ、やりたいです!
駒崎:ぜひ!今日はありがとうございました。
*対談後、荒井さんの活動に駒崎が参加しました。全国こども福祉センターの活動が具体的に知りたい方はこちらもお読みください!
→【ルポ】名古屋の着ぐるみ集団にまぎれてみた!
こども宅食でも、支援が届いていない・届きにくい親子と社会が自然につながり、親子が主体となって未来を切り開いていけるような状態を目指したいと考えています。
2017年の開始から3年で利用者は当初の4倍の約600世帯。2ヶ月に1回の配送とLINEやメールで親子とつながっています。
こども宅食の運営資金は文京区のふるさと納税を利用しています。活動を続け、多くのご家庭とつながり続けるため、ぜひ引き続きご支援をよろしくお願いします。