子どもの貧困に関わるNPO必見!貧困を視える化する 「剥奪指標」とは

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2017.12.26

Gaku Yamazaki
山崎 岳
NPO Florence

1992年生まれ。NPO法人フローレンスでこども宅食の企画推進とWEB回りを担当(Twitter:gakkun87

7人に1人の子どもが、相対的貧困に陥っている。この事実はよく知られるようになってきました。

近年、様々な調査によって、この「7人に1人の子ども」がどのような生活をしているのかが、明らかになってきました。2016年に行われた東京都「子どもの生活実態調査」などもそのひとつです。しかし、このような調査を実施する自治体は限られており、その調査結果を施策に活かしていく道筋もできていません。

子ども達の生活を改善するために、こういった調査とそれをもとにした施策は欠かせません。現状を認識して、データにもとづいた施策を打つという動きを、どのように作っていけばよいのでしょうか。

「子ども・若者貧困研究センター」のセンター長を務め、前述の調査を実現した、首都大学東京の阿部教授に、フローレンスの駒崎と日本ファンドレイジング協会の鴨崎が話を伺い、子どもの貧困問題のこれからに迫ります。

首都大学東京都市教養学部教授。子ども・若者貧困研究センター  センター長。子どもの貧困問題を先駆けて指摘した第一人者。

阿部彩

日本ファンドレイジング協会 事務局長。SROI(社会的投資回収率)評価や、SIB(Social Impact Bond)の日本導入なと、ソーシャルセクターを定量的に評価する活動に携り、社会的インパクト評価の普及に努めている。

鴨崎貴泰

認定NPO法人フローレンス代表理事。子どもの貧困問題に取り組む「こども宅食」の代表を務める。

駒崎弘樹

「子どもの貧困」という言葉に隠れた戦略性

阿部 私が貧困問題に取り組むようになったのは、ホームレス支援がきっかけです。しかし、「貧乏なのは、自分が頑張らないからだ」という自己責任論がとても強く、そこを回避するのが難しかった

そんな中、20年ほど前から、若者の貧困が注目を集めはじめました。そこで着目したのが、自己責任が課せられない子どもでした。

駒崎 湯浅誠さんが、同じことをおっしゃっていました。大人の貧困問題は、自己責任論が根強く、財源や人員といったリソースが投入がなされなかった。

しかし、子どもの貧困問題については、社会的に、問題を解決しようという動きが見られるようになってきました。

阿部 子どもに着目した理由は他にもあります。

子どもは、学校や保育所など、既に様々な機関とつながっている対象で、リーチしやすい。また、今支援を行えば、将来支援が必要ではなくなる可能性があります。

駒崎 貧困の連鎖を断ち切る、と。

阿部 そのような状況から、貧困問題を解決するには、まず子どもからアプローチするのが適切ではないか、と考えました。

このアプローチについては、ある一定の感触は得ていますが、反省点もあります。

それは「子どもの貧困は、大人の貧困とは違う、特別な貧困だ」という誤解を産む一因になってしまったということです。実際には、子どもの貧困だけが特別な問題ではなく、全て繋がったひとつの問題であると考えています。

駒崎 たしかにそうかもしれません。ただ、「子どもの貧困」という言葉を使った言説を、ある意味社会に仕掛けたからこそ、「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が策定されるなど、動いた政策もあったのではないかと思います。

阿部 この問題について、多くの方々に認識していただき、行動していただいていることは、成功だと思っています。

しかし、これで満足してはならない、ということを、政治家や、行政の方に口酸っぱく言っています。労働政策が悪化している中で、例えば、スクールソーシャルワーカーを増やしても、どんどんできていく傷口に、バンドエイドを貼り続けているようなものです。

まずは、なぜ親がまっとうに働いているのに、子どもひとり満足に育てられないのか。この問題に真正面から取り組む必要があります。

エビデンスが示す「子どもの貧困」の実態

鴨崎 駒崎さんと取り組んでいる「こども宅食」では、利用世帯の実態を把握するために、アンケート調査を行いました。実は、阿部先生の調査がベースなんです。

文京区の生活の厳しいひとり親家庭などのご自宅に食品を届け、それを切り口に子ども達のためのセーフティネットを作る官民連携の取り組み。こども宅食

駒崎 そうですね。阿部先生が立ち上げた「子ども・若者貧困研究センター」が、東京都で行った先行研究について教えていただけますか。

阿部 当時、東京は全国で唯一子どもの貧困対策計画を策定していませんでした。そこで、まずは実態調査をやろう、と都が調査費用を捻出してくれました。

2016年に行った東京都「子どもの生活実態調査」では、経済的な困窮が、子どもの学力や、心理面、食生活等に影響を与えている、ということが明らかになりました。

● 4つの自治体の小5、中2、高2(高校に在籍していない子どもを含む)の子どもを対象に、行った生活実態調査。「生活困難層」は(1)所得が一定基準以下(2)家計の逼迫(「電気料金」「家賃」「食料」など7項目で支払えなかった経験が一つ以上)(3)子どもの体験や所有物の欠如(「海水浴」「クリスマスプレゼント」など15項目から三つ以上該当)の三つの要素のうち一つ以上該当している家庭と定義。
● 生活困難層の割合は、小5で20.5%、中2で21.6%、16~17歳で24%に上った。また、生活困難層の中でも2つ以上の該当は特に厳しい状況に置かれているため、困窮層と定義している。東京都「子どもの生活実態調査」

阿部 この調査から、生活困難層が約20%、特に厳しい困窮層と呼ばれている子ども達が約6~7%いることがわかりました。

駒崎 生活困難層が20%というのは、豊かな東京というイメージからはかけ離れていますね。

阿部 生活困難層だからといって、すぐに生活保護が必要という状況ではありません。

しかし、8割の「普通の家庭」は、ガスの料金を滞納しないし、クリスマスにはプレゼントをあげていますよね。

私たちが考える「普通のこと」が出来ない家庭が20%はいる、ということです。

駒崎 なるほど……。他にも、毎日野菜を食べられない子どもがいたり、過去1年間に必要な食糧を買えなかった方も……。

阿部 私たちも普段スーパーに行ったら、野菜高いなと思うじゃないですか。ですが、お財布の中に、千円札1枚だったらどうでしょう。そんな状況で一家四人分の夕食を、と考えたら野菜は買えないな……とわかります。

駒崎 お腹がいっぱいになるものを買わなきゃ、となりますよね。子ども達に責任がない中で、食事が思うように食べられない状況になっている、というのは胸が痛い。

「剥奪指標」は貧困を可視化したいNPOの助けになるか。

駒崎 子ども達の姿が見えて、ますますどうにかしなければと思います。我々に今必要なのは、事業を最適化していくために成果を可視化するツールです。

阿部 実は、貧困の指標としてよく使われる「相対的貧困率」を計算するのは、ものすごく大変なんです。

算出するには、世帯の全ての方の勤労所得、それこそおじいちゃんの年金や、兄弟のアルバイト……全てを洗い出し、そして記載していく、という途方もない労力がかかります。

そういった調査を、自治体やNPOが事業の評価のために何度もやることは出来ません。

駒崎 我々は、阿部先生が研究されている剥奪指標がヒントになると考えているのですが、いかがでしょうか?

社会の中で生活に必要と判断される、衣食住といった物品やサービス、社会的活動などの項目を選定し、その充足度を指標化したもの。剥奪指標

阿部 剥奪というのは、「全ての人が生活に必要と納得するモノが、無い」という状態です。例えば、お小遣いが子どもにあげられない、テレビがない、冷蔵庫がない、などです。

このような指標であれば、「冷蔵庫がありますか?」と聞いて、○×をつけけるだけなので、比較的簡単かつ正確にはかることが出来ます。

欧米を中心に開発されましたが、指標としての使い勝手はよいと思いますね。

駒崎 なるほど。

阿部 難しいのは、剥奪指標に含まれるアイテムを、どうやって選ぶのかということです。

例えば、菜食主義の方は、「お肉を食べますか?」という質問には、食べない、と回答しますよね。しかし、それは貧困ではありません。

そのような欠如を除いた上で、「剥奪」とは「全ての人が生活に必要と納得するモノが、無い」という状態でなければなりません。

駒崎 なるほど。剥奪指標はどのように数値化されますか?想定的貧困は%で出ますが……。

阿部 1番シンプルなのは、X項目聞いて、そのうち何項目該当するか、ですね。

駒崎 剥奪されていれば、それを埋めたらいいんだ!と解決案を考え始めてしまいそうです。

阿部 ひとつ、誤解をしてほしくないことがあります。例えば「海水浴に行けない」という項目があります。それに該当する子どもに、「海水浴をさせればよい」ということではありません。

ほとんどの家庭は、子どもを年に一回くらい海水浴に連れていきます。それが出来ないということは、それだけ大変な経済的な逼迫を抱えているということなのです。

駒崎 海水浴に行く機会が剥奪されているので、海に連れて行こうぜ、ではないんですね。

阿部 そうです。経済的な困難を抱えている家庭なので、それを緩和する政策や、支援を行うことで、例えば、海に連れていけたり、誕生日や正月を祝ったりといったことが出来る、など我慢しなければ少なくなっていきます。

食糧支援であれば、食費が浮くので、その分を他に回せるようになるのです。

鴨崎 ご指摘頂いたような定義をした上で、貧困を産み出す要因を整理し、複合的な支援を行えば、様々な剥奪の状況が改善され、可視化出来るのではないかと考えています。

貧困研究に予算がつかない国、日本。

駒崎 こういった調査は、東京都に限らず他の自治体でもやっていけば、子どもの貧困問題の実態がよりはっきりしてきそうですね。

阿部 そうですね、しかし、私たち「子ども・若者貧困研究センター」が行うような実態調査については、まだまだ必要性が理解されておらず、各自治体の予算もつきづらいという課題があります。

研究センターの運営も、毎年、廃止の危機に迫られています。

駒崎 そうなんですか! 日本でも貧困問題が注目されるようになってきたのに、それを研究する機関に公的な支援がいっていないというのは驚きですね……

阿部 日本の学会では、「貧困」が学問として確立されていませんし、研究の予算もつきづらい。産業に結び付く理工系には意義を見出してくれるのですが、貧困政策に資する研究は評価されません。

欧米では貧困研究所がたくさんあるのですが。

鴨崎 ソーシャルセクターなど民間が、そういった研究センターと連携し実績を出し、必要性を社会に発信していくことが重要ですね。

駒崎 そうですね。これからの日本のために非常に重要な分野なので、しっかり連携していきたいと思います。

NPOは現場から、エビデンスを積み上げ生の声を発信するべし

阿部 私は、調査をやることの1番大きな意義は、「うちの市には子どもの貧困なんてないよ」という人達に対して、「いや、ある」ということを突きつけられることだと思っています。

各自治体で調査をしても、ハッキリ言って結果は同じなんですね。しかし現状では、足元の子ども達の状況を知らない方が、あまりにも多い。そこを崩すために、調査をしてエビデンスを明示する意義があります。

駒崎 確かに文京区で「こども宅食」を立ち上げた時にも、多くの批判がきました。「なぜあんな豊かな所で」と。しかし実際に1,000世帯の困っている家庭がいます。エビデンスをもって、そういった誤解を解消していかなければならない。

駒崎 阿部先生は、こどもの貧困を解決する上で、NPOに、何を期待しますか?

阿部 まずはそういった課題があるということを国や世間の人々に伝えること。アドボカシーですね。

※アドボカシー…社会的弱者やマイノリティの権利擁護・代弁すること

本当にまだまだ、子ども達の状況が認知されていません。いくらテレビで報道されニュースになっていても、「貧困捏造だ」なんて言う人もいます。

ソーシャルセクターで働くみなさんは、リアルな現場を見て、生の声を聞いています。データとセットで「このような政策をやるべきだ」と色々な形で発信していただき、声を上げていただくのが重要です。

そうでなければ、根本的にこの問題は解決されないのではないでしょうか。

駒崎 はい、当事者の声を代弁し声を上げたり、社会課題を発信したりすることは我々NPOのやるべきことのひとつですね。

阿部 特に貧困問題については「自己責任論」もあり、自分ごとの問題にしてもらうのは難しい問題です。

しかし今はむしろ、「私も大変だから、余裕がない」という自己防衛にとらわれている方が増えてきているのではないでしょうか。

「うちの子がフリーターになるかもしれないから」「もっと貯蓄をしなくてはいけないから……」と。だから「誰かを助ける余裕がない」という方も多いのではないでしょうか。

「自分と自分の家族を守ろう」という自己防衛から、「みんなで連携して、もっと楽に過ごせるように」という連帯の方向に向かっていけばいいのではないかと思っています。

鴨崎 NPOの活動というのは、いっしょに社会課題を解決していく、というのが本質だと考えています。

社会課題を視える化し、解決策を提示し、共感で巻き込みリソースを集めて、解決していく。我々はこのプロセスに関わる機会を、寄付やボランティアという形で提供する存在だと思っています。

人は、そのプロセスへの参加の体験の積み上げを通して、自己防衛をしなくていいんだ、あ、お互い様なんだ、という感覚を得ていくのではないでしょうか。

NPOやソーシャルビジネスが、想いを増幅していく装置として機能していく。個人主義ではなく、共助・互助の社会をつくっていくために、我々が果たす役割は大きいのではないでしょうか。

阿部 こども宅食も、みんなのちょっとした気持ちを集めていくツールなのかもしれませんね。

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<編集後記>

座談会はここまでです。貧困問題を解決するために、アカデミックから社会を動かしてきた阿部先生。

その過程で残されてきた調査研究の業績をこども宅食では活かし、自己責任も、自己防衛も超えて、共助の社会をつくっていきたい。そんな風に感じた座談会でした。

(了)

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