「子ども達を救うためには ”実験” が必要だ」NPOは社会的インパクト評価を活用せよ

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2017.12.28

Gaku Yamazaki
山崎 岳
NPO Florence

1992年生まれ。NPO法人フローレンスでこども宅食の企画推進とWEB回りを担当(Twitter:gakkun87

あなたは、「私の活動は、社会課題を解決している!」と自信を持って、言うことが出来ますか?「他の手法と比べて、投資対効果が高い」と活動の価値を証明出来ますか?

 私は「子どもの貧困問題」に取り組む「こども宅食」に携わっていますが、「この活動は、一体何を実現した時に、問題解決したといえるか悩み続けています。

 今回は、社会インパクト評価の旗手鴨崎氏と、貧困問題の第一人者阿部教授に駒崎が話を聞き、成果を可視化するためのヒントを探していきます。

「子ども・若者貧困研究センター」のセンター長を務め、前述の調査を実現した、首都大学東京の阿部教授に、フローレンスの駒崎と日本ファンドレイジング協会の鴨崎が話を伺い、子どもの貧困問題のこれからに迫ります。

日本ファンドレイジング協会 事務局長。SROI(社会的投資回収率)評価や、SIB(Social Impact Bond)の日本導入なと、ソーシャルセクターを定量的に評価する活動に携り、社会的インパクト評価の普及に努めている。

鴨崎貴泰

首都大学東京都市教養学部教授。子ども・若者貧困研究センター  センター長。子どもの貧困問題を先駆けて指摘した第一人者。

阿部彩

認定NPO法人フローレンス代表理事。子どもの貧困問題に取り組む「こども宅食」の代表を務める。

駒崎弘樹

婚活事業の成果指標は…?

駒崎 昔、内閣府の事業仕分けの場に出席したことがあるんですね。そこでレビューしたのが、婚活事業。政府が、様々な地域で男女を集めて、婚活させていました。

その場で、この事業の成果についてたずねたんです。

「成婚率はどうなっているんですか?」

成婚率はわかりません。個人のプライバシーなので……。

とおっしゃるんですね。

「わからないとしたら、どのようにして、事業が良いとか悪いとか、判断するんですかね?」

と聞いたら、

「その場の人達の笑顔が素晴らしく…」とか「地域の活性化が…」とモゴモゴ仰っていてるわけです。

いいかげんにしろー!となりました(笑)

鴨崎 成果が測れない、典型的なパターンですね。

駒崎 一方で、我々NPOも批判ができるのか、というと、そうとも限りません。

我々NPOも、「いいことをやっています、子ども達の笑顔を見て下さい!」と訴えがちです。

その手法が、どれくらい世の中をよく出来ているのか。他の手法と比べて優れているのか、劣っているのかを定量化し、可視化することは出来ていませんでした。

駒崎 そんなことがわからないまま、進んでいかなければならない。そこに示唆を与えてくれたのが、社会的インパクト評価です。

短期・長期の変化を含め、活動の結果として生じた社会的・環境的な成果(社会的インパクト)を定量的・定性的に把握し、当該事業や活動について価値判断を加えること。社会的インパクト評価(Social Impact Measurement)とは

社会的インパクト評価が必要になった背景

鴨崎 社会的インパクト評価は、「自分たちの活動が、社会にどれだけの影響を与えているのか」を可視化する方法の一つです。

たとえば、失業者の就労支援事業であれば、その事業を通じて実際に就労が実現した人の数や、その人が就職後どれくらいの期間働き続けているか、仕事の満足度はどうか……などを計測する、などをイメージするとわかりやすいかもしれません。

駒崎 いま注目を集めている理由はどうしてでしょうか?

鴨崎 第一に、我々NPOは「良いことをやっている」という自負はありました。ですが、社会や、支援者の皆さんに対して、成果を数値で示していくことが足りていなかった、という問題意識があります。

第二に、社会問題が複雑・重篤化していく中で、自分達の活動が社会的にどれくらいのインパクトを出しているのか。

そして、描くビジョンに対しての現在地を自らも把握し、活動を最適化していかなけれならない、という問題意識です。

このような背景から「社会的インパクト評価に取り組まなければ」という機運が高まっています。

駒崎 社会的インパクト評価は海外で研究が進んでいるんですか?

鴨崎 そうですね、海外で先行していますね。

2008年の金融危機をきっかけに、「利潤だけを追い求めるだけでよいのか」という考え方が広まりました。

企業価値を評価する投資家らの意識も変化していました。企業もそれに呼応し、財務価値だけではなく、「その企業の営みが、環境や社会にどのような影響を与えているのか」という非財務価値を開示するようになっています。

このムーブメントが非営利セクターと合流し、発展してきたという経緯があります。

エビデンスが活かされない政治の世界

駒崎 日本の政治の世界では、データ等の根拠をもとに政策を立案・実行していくエビデンスベースドポリシーメイキング(Evidence Based Policy Making)の重要性が叫ばれています。しかし、なかなか浸透していない状況ですよね。

官僚の方からすると、効果がつまびらかになり、批判されるのを恐れているんでしょうか。

阿部 私は、市民も意識を変える必要があると思います。当たり前のことですが、どんな素晴らしい政策でも100%成功するわけはないんですよね。

駒崎 企業でもNPOでも、失敗があって当然ですよね。

阿部 はい。しかし政府や、行政の場合、失敗すると国民やメディアにめちゃめちゃ叩かれる。そうすると、官僚や政府が守りに入ってしまうのは当然です。

失敗することがあるのは当たり前、失敗したら改善すればよいだけの話です。それを「税金の無駄遣い」と否定の材料にするのはよくないのではでしょうか。

駒崎 仰る通りですね。「政府や行政もトライアンドエラーするもの。エラーも織り込んで評価する」そんな風に、我々市民も認識を改めなければなりませんね。

子ども達を救うために、ある種の ”実験” が必要

駒崎 阿部先生から見て、エビデンスをもとに政策や事業を実行するということは、どれくらい実践できていると思いますか?

阿部 日本の場合は、エビデンスが政策立案にまで活用されていない現状です。ほとんどの事業について、先程の婚活事業と同じようなことがいえるのではないでしょうか。

政府、自治体もそうですし、民間の方々もそうではないでしょうか。「この政策をやっていなかった場合と比較して、効果はあったと言えるか」という視点を考慮しません。

例えばイベントなら、その場に来た人の数や感想など、得やすい評価・データだけで判断してしまっているのではないでしょうか。

駒崎 おっしゃる通りです。

阿部 ただし、エビデンスを突き詰めて、政策を実行に移すのはとても大変です。例えばある事業をやる時に、根拠となるデータがあるとしても、ある人支援し、別の人は支援しない、という判断をするのは難しい。倫理的なハードルもあります。

駒崎 たしかにそうですね。簡単なことではないと思います。

いっぽうで、リソースの面から見ると、特に我々民間の人員や資金はとても限られたものです。だからこそ、どの手法が本当に子ども達を救えるのか?というのを、早急に知る必要があります。そのためにはエビデンスベースの考え方が重要なのでしょうね。

それを踏まえてある種の社会実験を行い、最適な手法を見つける。そしてその取り組みに効果があることを検証した上で全体に広げて、全ての子ども達を救っていく、というステップを歩まなければなりません。

社会的インパクト評価を実装するこども宅食

駒崎 僕が鴨崎さんと取り組むこども宅食では、利用する家庭と、同じように経済的に厳しい状況にある非利用家庭に対して、利用の前後でアンケートをとります。支援を受けた家庭とそうでない家庭の比較調査を行うことで、更に効果的な施策を探っていこうと考えています。

文京区の生活の厳しいひとり親家庭などのご自宅に食品を届け、それを切り口に子ども達のためのセーフティネットを作る官民連携の取り組み。こども宅食

鴨崎 現在は、支援によって改善の見込める指標について仮説を立て、データをとっていく、という手法をとっています。例えば、食品を届けるので、朝食の回数など、生活のリズムや栄養状況の改善を見込んでいます。

駒崎 さらに、こども宅食では、食べ物を届けることをきっかけにご家庭と繋がりを作り、各家庭のニーズに基づいて社会的資源とつなぐソーシャルワークを行います。

貧困の原因が、「ひとり親だから」だと分かりやすい。しかし、課題は複雑です。お父さんが病気で、お母さんが障害を持っている、しかも実家が遠い…。こんな風にいくつかの条件が重なると、両親が揃っていてもかなり厳しくなります

そんな時は、「お父さんが病気の時に、この制度を使うとサポートしてもらえますよ。」「障害があっても、柔軟に働ける職場をご紹介しますよ。」と、そのご家庭の課題をひとつひとつ丁寧に解決していく必要がある、と思っています。

鴨崎 そうですね。解決策を提示する際には、我々NPOの強みを活かし、多機関で連携したり、新たに何かつくっていったり…。

そうやって、複雑な背景を抱える問題を解決していきたいですね。コレクティブインパクトと呼ばれる、協働による創造的な課題解決です。コレクティブインパクト

個別アプローチでは解決できなかった社会的課題に対して、立場の異なる組織が、組織の壁を越えてお互いの強みを出し合い、解決を目指すアプローチのこと。

まずは困っているご家庭を社会的資源につなげていき、その先には、もう少し具体的に、たとえば心身の健康状態や、お子さんの学力などを指標として、改善に取り組むアプローチも考えています。

また、ご家庭を社会的資源と繋げるという目的を達成するために、「何が困難な状況を発生させているのか」を明らかにする情報が大切だと考えています。これらについてもアンケートなどを通していろいろなことがわかってきています。きちんとした形で公表したいと思っています。

エビデンスを基に、官民の健全な競争を。

駒崎 最後に鴨崎さん、日本の社会的インパクト評価について、どのような未来を描いていますか?

鴨崎 今、日本と海外を比較した時に、社会問題解決の現場にある圧倒的な違いは、「データの有無」です。

日本の場合は、人々の生活に1番近い所でサービスを行っている行政が、最もデータを持っています。

しかし愕然とするのは、そもそもデータを取るということをしていなかったり、未整理であったり、蓄積方法がバラバラであるなど、データの管理がなされていないということです。

一つの自治体に留まらない大規模な企画を行う時に、基礎となるデータが揃わない。揃えるためには、途方もないコストがかかるというのが現状です。このことが、日本の社会問題解決の計画・効果検証を阻害しているのではないでしょうか。

今回は、官民連携の取り組みで、現状を正しく把握するためのの調査を行っています。ここから、政策並びに民間の介入を含め、効果検証をしていく中で、何がもっとも有効な手立てなのかを明らかにしていく

そして、そこで官民の健全な価値競争が行われ、適切なリソース配分がなされていく。「ここは行政、ここは民間がやった方が効果的だよね」そんな議論が出来れば、と思っています。

駒崎 ありがとうございました。

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<編集後記>

こども宅食では、利用者・非利用者に利用前後で比較調査を行います。

これらを基に、成果と次の目標を可視化し、現在地点をきちんと把握する。そして、子ども達を救う手法は最も効果的なものに素早く最適化していく。

この地道なエビデンスに基づいた改善こそが、最も素早く社会問題を解決する手段なのではないか、そのように思わされた座談会でした。

(了)

「こども宅食」は、初年度は150世帯に食品を届ける予定でしたが、当初の3倍の約450世帯からのお申込みがありました。

今も300世帯が「こども宅食」を待っている状態です。ご希望いただいた家庭に食品を届けられるように、ご寄付を受け付けています。

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