「ママ友にお出かけに誘われても、断る」ひとり親の孤立をどう支えるか
「ひとり親家庭の2人に1人が経済的に厳しい状態にある」
こう聞いて、実感が湧いた方はどれくらいいるでしょうか?
厳しい状態にあるとはいえ、子どもと連絡を取るためにスマートフォンを持っているケースが多いことや、ファストファッションの流行により洋服が安く手に入ることなどから、サポートが必要な家族かどうかは外から見ただけでは分かりません。
そこで、ひとり親家庭の生活の実態を知っていただくために、10歳のお子さんを一人で育てながらフルタイムで仕事をされている佐藤さんにインタビューをしました。
このインタビューから分かったことは、ひとり親家庭によってはママ友同士のお誘いを手放しで喜べない現状があること、人から物が届くこと自体が稀で、「こども宅食」のように食品が届くと物質的な喜びよりも精神的な喜びのほうが大きいということでした。
そのほかにも、仕事・育児・家事を両立するために工夫を重ねていることや、なかなか周囲には話せない困りごと、日々の生活について伺いました。
時間にも経済的にも余裕がない中、工夫を重ねる毎日
― 仕事に育児に家事に忙しい毎日だと思うのですが、どのような毎日を送っていらっしゃるんですか?
佐藤:私は毎朝4時50分に目覚ましをかけて起きています。朝は掃除や洗濯などの家事全般のほか、息子の朝食の準備をします。とにかく息子は卵が大好きなので卵を使った料理を作っておきます。
それから、昨夜の残り物を詰めて自分のお弁当を作り、職場に持っていっています。
周りの社員の方は昼食を買うことが多いのですが、やはりお金もかかりますので、自分は極力お弁当を持っていって節約するようにしています。
― 今は夏休みですが、お子さんのお昼ご飯はどうされているのですか?
佐藤:夏休みは学校がないので、息子は近所でやっている無料の学習支援に行っています。学習支援には給食がないので、子どもにはお弁当を持たせています。
周囲の方から「毎日お弁当だからって、重荷に思う必要ないのよ。おにぎりとみかんでもいいんだから」とあたたかい言葉をかけてもらえましたし、本人も小柄で食が細いのでおにぎりしか食べないこともあるんですけど、子どもの身体のことを考えて、おかずも作るようにしています。
生活を考えると、簡単に仕事を休めない
― 10歳とはいえ、放課後や夏休みに子どもを一人にさせるのは、まだ不安があるのではありませんか?
佐藤:昨年、4年生になったときに、学童に入れなくなったんですね。定員があるので、1年生に譲ってほしいと言われてしまって。そこで鍵っ子にして、一人でお留守番をさせていたのですが、親の目の届かないところで金銭的なトラブルに巻き込まれてしまって……。それがきっかけで、放課後は団地の会長さんのご自宅で面倒を見ていただけるようになったんです。
― 今どき珍しいご近所付き合いがあるんですね。
佐藤:はい、とても助けていただいています。今では夕食までいただくほど親身になってくださっています。 今はおかげさまで、実家が近くにあるような生活を過ごさせてもらっています。
― それはとても有難いことですね。ちなみにご実家はどちらなんですか?
佐藤:静岡なんです。遠くはありませんが、そう簡単に親を頼れる距離でもないんですよね。息子が保育園の頃にインフルエンザに罹ったときは、息子を実家に預けて、新幹線で通勤して大赤字になったこともあります。生活のこともあるので、そう簡単に仕事を休めないんですよね。
あの時、誰かに頼めたらよかったなと思います。今は会長さんに見守ってもらえて、本当に助かっています。
子どもの願いを叶えてあげられないことが悲しい
― 周囲の方に支えてもらう一方、それでも普段の生活の中で何か困ったことはありますか?
佐藤:ママ友達からお出掛けのお誘いをいただくこともあるのですが、経済的な理由からなかなか毎回参加することはできません。断り続けると「なんで行かないの?子どもがかわいそう」と言われることがあって……。
それからは無理矢理行くようにしているのですが、どうしても行けない時には断っています。そうすると「代わりに連れて行ってあげるよ」と言われるんですよ。子どもを預けるのはさすがに申し訳ないですし、どちらにしてもお金がかかってしまいますよね。
― 息子さんが何か我慢をされている様子はありますか?
佐藤:毎年、夏休みになると、「一行日記を書く」という宿題が出るんです。一行日記に書けるように、どこかに連れて行ってあげたいという思いはあるのですが、なかなか旅行に行くのは難しくて。「旅行に行く=実家に帰る」ということになりがちなんです。
それ以外だと、せいぜい近所のプールや夏祭りに連れていくのでギリギリです。子どもがディズニーランドに行きたがることもあるのですが、もう何年も連れて行けてないんですよね。
節約を重ねていても、「お金がない……」と無意識につぶやいてしまうこともあって。その時に子どもが「ママ、はいどうぞ」って自分のお小遣いを持ってきてくれるんです。優しい子に育ってくれているのは嬉しいことですが、子どもの願いを叶えてあげられないのは、母親としてはやはり悲しいです。
― 普段の学校生活で気がかりになっていることはありますか?
色々な人の手助けがあるおかげで日々の生活を送ることができているのですが、旅行だけでなく、子どもの習い事や部活はやはり難しいですね。本人もそれを分かっているのか、「やらない」って言うんです。
また、きちんと勉強を見てあげられないのも気になっています。忘れ物も多いですし、学校からいただくプリントをまとめて出してきたりもするので、もう少しきめ細かく、子どものことを見る余裕がほしいのですが……。
食が豊かになることよりも、人から物が届くという体験が嬉しい
― ひとり親家庭や経済的に厳しい状況にある家庭に食品を届ける「こども宅食」を始めます。この取り組みについては、どんな風に思われますか?
佐藤:「届けてもらえる」というのが本当に画期的です。以前、食品を取りに行ったことがあるんですが、時間や交通費がかかりますし、「家まで届けてもらえる」というのは、想像すると本当にありがたいと思います。それにプレゼントみたいで嬉しいですね。
宅配便で届くというのも、周囲の目を気にせずにすむので助かります。
実は以前、「子どもを虐待している」といたずらで通報されたことがあって、児童相談所の人がきたんですね。「この子には傷もないし、泣いてもいないですよね」と息子の様子を見せて、帰ってもらいました。
「仕事で来ている」ということは分かっているのですが、周囲の人から「この人何かしたの?」と思われることが怖くて、やっぱり児童相談所や区役所の人が自宅に来るというのは少し抵抗があります。
普通の宅配便として食品が届くのであれば、違和感もないですし、喜んで受け取れますよね。
LINEで申し込めるのも、とっても気楽です。電話だと時間を選びますが、LINEだったら、仕事のお昼休みにささっと対応できるので助かります。
息子が宅配業者から荷物が届くのを本当に喜ぶんです。いつも「なになに?何が来たの?」って箱の中を覗き込みます。ましてや、それが食品だったら、プレゼントみたいに感じて本当に嬉しいと思うんです。
食が豊かになること以上のプラスの効果がありますよね。自宅の食が豊かになることよりも、「人から物が届く」という喜びのほうが大きいです。「何が入っているのかな?」と食品を取りに行くのとは違うわくわく感を味わえますよね。
早くいろいろな地域に「こども宅食」が広まるといいなと思います。
(聞き手:村山幸)
工夫を重ねながら、一所懸命子育てをしている佐藤さん。
ひとり親家庭の中には、佐藤さんのように「生活を支えるために、仕事を簡単に休めない」「旅行や習い事、部活動のお金を捻出するのが難しい」という家庭もあります。
「こども宅食」では、利用申込をきっかけにLINEで保護者とつながるので、保護者は空き時間にいつでもLINEを通じて悩み事を相談することができます。
例えば「子どもの学力に不安があるが、塾に通わせるお金がない」という相談があれば、無料の学習支援の情報をLINEでお届けすることができます。また、子育てに役立つ情報を定期的に配信することにより、保護者の方が気づいていなかったニーズを満たせる可能性も秘めています。
「こども宅食」では、ひとり親家庭や経済的に厳しい状態にある家庭とつながり、それぞれのご家庭に必要な支援を届けていきます。引き続き応援をお願いします。
文京区こども宅食はふるさと納税による寄付を原資として活動しています!
文京区こども宅食事業を運営するためには、配送費、広告宣伝費、人件費などの資金が必要です。
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みなさんのご寄付が、子どもたちや子育て家庭の力になります。今後も多くのご家庭にこども宅食をお届けするために、みなさんのご支援をよろしくお願いいたします。