街の小さな絵本店が、こども宅食に寄付するわけ―「OSAGARI絵本」株式会社ブギ

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2020.02.25

こども宅食事務局

こども宅食事務局が、こども宅食の歩みや、子どもの貧困についてのニュースをお届けします!

一昨年に続き、文京区で古本事業を営む株式会社ブギさん(ネット古本店「本棚お助け隊」と中古絵本店「OSAGARI絵本」を運営)からこども宅食の利用者さんへ、クリスマスプレゼントとして絵本をご寄付いただきました。

「社会のためにできることをする」と迷いなく宣言する、街の小さな絵本店。その行動力の源には、秘められた信念がありました。代表の菅原大司さん、スタッフの伊藤みずほさん、谷口理恵子さんに、その想いをうかがいます。

【プロフィール】

菅原大司(すがわらだいじ)
◆株式会社ブギ 代表取締役。子どものころは家にあった図鑑セットを端から読んだ。好きな絵本は『輪切り図鑑 大帆船』『おとうさんとさんぽ』など。

伊藤みずほ(いとうみずほ)
◆OSAGARI絵本店主。おもちゃコンサルタント、2年前に保育士資格取得。好きな絵本は『ゴムあたまポンたろう』『あなたがうまれたひ』など。

谷口理恵子(たにぐちりえこ)
◆本棚お助け隊/OSAGARI絵本スタッフ。大学生&中学生の母。好きな絵本は『わすれられないおくりもの』『あめのひえんそく』など。

 

インタビュアー
髙橋亜美(たかはしつぐみ)写真左 ◆認定NPO法人フローレンスこども宅食事業部 広報。3歳&5歳児の母。5年間子どもに毎晩絵本を読んでいる。好きな絵本は『はじめてのおつかい』など。齊藤香惠子(さいとうかえこ)写真右◆ライター。子育て支援NPOや児童福祉の分野で働いてきた経験を活かし、教育、福祉、子育て関連の記事を書く。4歳男児の母。

 

── 株式会社ブギさんの事業内容を教えてください。

伊藤 株式会社ブギは、ネット古本店「本棚お助け隊」と中古絵本店「OSAGARI絵本」を運営しています。本棚お助け隊が先に始まった事業で、大手通販サイトでの中古本の販売をしています。今でも株式会社ブギのメイン事業は、本棚お助け隊です。

私と代表の菅原は夫婦なのですが、5年前に出産して育児が始まりました。子どもが生まれたことで絵本を手に取ることが増え、絵本について改めて考えるようになりました。絵本はそれなりに高価なので、新しい物をそう気軽に買えるものでもありません。そこで、私自身も中古の絵本をネットで探し求めるようになりました。

でも、顔が見えないネットだと売る・買うという工程で体温を感じられなかったり、人の手という温度感が伝わりにくい中で、少しでも汚れがあると気になってしまう。特に子どもが小さいうちは。一方で、古本屋として、絵本を読み続けてきた親子の思い出が詰まった素敵なものを販売している、という自負もある。そういった中古の絵本ならではの良さというのを、直接販売でていねいに伝えていきたいと思って始めたのが、OSAGARI絵本です。

── 昨年も、こども宅食の利用者さんへのクリスマスプレゼントとして、絵本を寄付してくださいました。

伊藤 こども宅食を知ったのは一昨年のことでした。何かお手伝いできることがあるかもしれないと思い、担当者の方に連絡させてもらったことを覚えています。

担当の方からご利用家庭をとりまく環境をうかがい、「クリスマスも近いし、弊社商品の絵本をプレゼントしたら喜んでいただけるんじゃないか」ということになりまして。

昨年は、事前にご利用家庭にプレゼントへの申込みをしていただいて、個別にアンケートをとってお子さんの年齢や好みを伺いました。できるだけ好みに合いそうな絵本をこちらが選んで、個別にお届けするというやり方でプレゼントさせてもらいました。

── 今年は、配達員さんが配送の箱にたくさんの絵本を入れて各家庭にいき、その場で好きな絵本を選んでもらうというスタイルに変更しました。

伊藤 そうです。これは、こども宅食の配送を担当しているココネットさんと相談して決めました。寄付の取り組みは、継続することがとても大切です。そのためには、少しでも配送の負担を減らすことも必要だと考え、今年はこのスタイルで試してみました。

── こども宅食の仕組みは「見えない貧困を見えないまま支援する」コンセプトを基に、必要なひとにお届けするのがポイントです。今回ご用意したすべての絵本がお届けできたのも、良かったですね。

菅原 配送の仕方は、今後も色々と試行錯誤する必要があると思っています。今回も、前回と同じくらいの希望者がいるだろうと想定して、それよりも多めに149冊用意して配ったんです。それが、ふたをあけてみると、全部お届けできたとのことで驚きました。

今回、申込制にせずお届けするスタイルにしたことで、絵本を必要とされている方にお届けできたように思います。絵本が欲しくても忙しかったり何らかの理由で欲しいと言えないご家庭、「あるといいな」「必要だな」と思っている家庭に、お届けすることで広くいきわたったのかなと思いました。

伊藤 たくさん用意された絵本の中から自分で選べたのも、今回のポイントだったのかなって思いますね。選べるって、すごく子どもにとって楽しいことですよね。

今回の本のセレクトは、スタッフの谷口がメインで担当してくれました。絵本にとても詳しくて、そのセンスの良さに定評があるスタッフです。

絵本を誰かのために選ぶというのは、想いを届けることなんですね。ご利用家庭にはきっと色んなご家庭があって、それぞれに事情がある。そこでの親御さんや子ども達の日常に想いをはせながら、「絵本でワクワクしたり癒されたりする時間を少しでも持ってもらえたら」という、同じ気持ちで選んでくれたなと思っています。

谷口 今回は、0~1歳、2~3歳、4歳以上と3パターンにわけて選びました。でも、単純に年齢だけで分けられるものではなく、親御さんが読むのか、お子さん自身が読むのか? さまざまな好みに応えられているか? 等も考慮する必要があります。限られた本の中から、試行錯誤して選びました。

私も選んでいるうちに、すごく懐かしい絵本が沢山あって。我が家の子どもたちも絵本が大好きだったので、子どもへの読み聞かせは本当に良い思い出です。

── 私も今、未就学の子どもの子育て中です。子どもが絵本の読み聞かせが大好きで。親の私にとっても、癒しの時間だなぁと思っています。

伊藤 OSAGARI絵本が伝えたいことは、まさにそういうことなんです。絵本を読むだけで、親子のコミュニケーションが生まれますよね。

もちろん、知識を得るために絵本を読むという考え方もあると思います。でも当店ではそこにフォーカスするのではなく、絵や言葉が単純に美しいとか、楽しいとか、お母さんやお父さんの声を聞くことでほっとするとか。絵本のそういう楽しみ方をお伝えしていけたらいいなと思っています。

── でも、絵本を読むのも本当に大変ですよね。仕事で疲れていることも多くて、くたくたな日は心を込めて読んであげられなくて。「ちゃんと読んで」と子どもに怒られる日もあります。

伊藤 ありますあります。当然、毎日完璧にできる必要はないですよ。我が家でも夫が読むときは、自分の好みじゃない絵本だと早口でサーっと終わらせたり、よく息子に抗議されています

でも、絵本のいいところって、ある意味「読むだけ」で良いことなんです。例えば他のあそびだと、「何をしようか」とか「材料はどうしよう」とか、ちょっと構えてしまう親御さんもいます。でも絵本は、早口になってしまおうが何だろうが、とにかく読んでみる。人によっても読み方は違うし、同じ人でもその時によって読み方が違うなぁというのも、子どもにとっては学びの1つです。

だから、深く考えず構えず、とにかく子どもとくっついて、何も考えずに声に出して読んでみる、というのでいいと思います。そうして、なんとなく読んでるうちに、親御さんの方が癒されたりして。

── 自分や子どもが楽にすごせる場所を知ることで、子育てのしやすさや母親の孤立感は全く違ってくるなと、子育てをする中で実感しています。例えば、保育園や幼稚園の情報もそうですが、待ち時間が少ない病院や子どもに優しくて過ごしやすいお店などの地域の情報です。

このOSAGARI絵本さんのような場所が、皆さんの身近にあるということを知ってるかどうかでも、随分と違ってくるだろうなと思います。

伊藤 そうですよね。地域で、保護者がゆるっとできる場所がたくさんあると良いですよね。お母さんの安全地帯というか。

OSAGARI絵本は普段は17時までの営業なんですが、月に2回、金曜日の夜に、19時半までの「夜更かし営業」をしています。親御さんとお子さんに、ふらっと立ち寄ってもらって、いっしょに絵本を選んだりいろんな育児の話をするんです。愚痴をこぼしたりとかね。19時半までやっているので、仕事帰りの親御さんも来られます。夜ごはんにおにぎりやサンドイッチを持ってきてもらって、みんなで一緒に食べるんです。

── 保護者を孤立させない、そういう繋がりが本当に大事ですね。こども宅食が利用家庭に届けたいのも、誰かとどこかで繋がっているという気持ちです。日常の中で、OSAGARI絵本という場所でちょっとでも顔を合わせる、挨拶できるというのは、24時間子どもと2人きりになりがちな母親にとっては救いになる。

伊藤 本当に。子どもがイヤイヤ期で、外で泣いて暴れたりして、自分も感情的になっているときに声をかけられる、笑顔を向けられるだけでも、1人じゃないんだって思えますよね。自分が悪いお母さんってことじゃないんだって思える。街中で子どもが泣き叫ぶと、親はどうしても「自分が悪い」と自分を責めてしまいますから。

── 改めて、子育て中のお父さんお母さんを孤独にしてはいけないなと思います。こういった社会貢献に関心をもつようになったのは、何かきっかけがあるんでしょうか?

菅原 僕は元々、こういった社会貢献やチャリティといったこととは縁遠い人間だったんです。でも経営的なことや社会全体のことを考えると、企業も社会をよくしていくことをやらなければ、これからの時代は生き残れない。

伊藤 息子が生まれたという影響は大きいですね。我が子を通じて、地域社会を再発見しているというか。自然と子どものお友達は可愛いと思えますし、その親御さんも親戚のように思えてきて。目を向ける範囲がどんどん広がりました。

菅原 ニュースにならないだけで、子育てにまつわる虐待などの悲しい話は、残念ながら身近にあるんだろうと思うんです。困ってる人ほど、困ってしまう要因があるんだなって思うんです。そういう要因を見ないで、悪い意味での自己責任論で見捨てていくっていうのは、よくないなって。

自分はたまたま、色々な支えがあってそうならずに済んでいますが、誰だって紙一重ですよね。糸一本で繋がっている人もいる。それが切れちゃうと、どんどん悪い方に陥っていくんだと思うんですよ。うちがその何かの支えになるのであればいいなと思うんです。

── 何か社会のために行動したいと思っても、こうやって実際にアクションを起こせるというのは、なかなか出来ることではないです。

伊藤 大切にしている言葉があって、東京おもちゃ美術館館長の多田千尋さんの言葉なのですが「自分がもっている力の1割を、人助けや福祉のために使いましょう」というものです。

できる範囲や影響力は人によってそれぞれ違うけれども、自分にとっての1割を、誰かのために使えれば良いかなと思っています。それが「夜更かし営業」のイベントだったり、こども宅食さんへの寄付なんです。みんながそれぞれにとっての「ちょっとずつ」をできるようになればいいなと思うんです。

菅原 弊社のメイン事業は古本の流通ですが、そのノウハウを生かした古本チャリティプロジェクトにも、長年取り組んでいます。ここ数年、このプロジェクトに関するお問い合わせが増え、私たちにもお手伝いできることはまだまだあると感じています。今後も誰かに求められ、そこに何とかして応えようとする存在でありたいと考えています。

小さな会社ですけど、少しずつ、やれることはやる。社会を見渡すと、少子化は止まらないし、格差は広がっているし、未来に希望を見出しにくいと感じることもある。でもそういうわけにはいかない。それぞれが、少しずつ頑張らないと。

大きな企業でも小さな企業でも、想いがある方は実は多いんです。でもチャンスがなかったり、やり方を知らないという課題がある。それぞれの企業で色々な事情もあるでしょうが、ちょっとずつみんなでやりませんかと盛り上げていきたいですね。やっぱり、「やって良かった」と思える仕事をしたいですよ。

伊藤 それが究極ですね。それに「社会のために」と思って仕事をすると、どんどん仲間ができますね。皆さん、特に資格を持っていたり、何か大きなことをやっているわけではなくても「何かしたい」と思って、地道な行動をされている方は沢山いて。

「こういうことしたいんです」って言うと、「え?あなたも?」「私も同じこと考えてた!」って、「じゃあ何かできるね」って言って、どんどん広がっていけるんです。

── こども宅食も、同じですね。それぞれ立場や専門性は違っても、みんな同じ想いで繋がっています。これからもOSAGARI絵本さんのように、同じ想いを持った方々と出会っていけたら良いなぁと思います。本日はありがとうございました!

(昨年のインタビューはこちら)

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