子どもの貧困と自己責任論。湯浅誠が貧困バッシングに感じた「心強さ」とは

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2017.12.19

Megumi Kikukawa
菊川 恵
NPO Florence

NPO法人フローレンス所属。こども宅食広報担当。(Twitter:megumikikukawa

貧困の話題と切っても切り離せないのが、自己責任論。

しかし、日本の貧困問題に20年以上関わってきた湯浅誠さんは、「子どもの貧困は、自己責任論を乗り越えられる」と言います。

「子どもの貧困」をテーマにした番組で女子高生が炎上したことがありましたが、その時、湯浅さんは「心強い」と感じたそうです。それはなぜでしょうか。湯浅さんから見た「子どもの貧困」について聞きました。

 

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湯浅誠
1969年東京都生まれ。日本の貧困問題に取り組む第一人者。2008年末に日比谷公園で行われた「年越し派遣村」の村長としても知られる。元内閣府参与を経て、現在。法政大学現代福祉学部教授。『反貧困』『「なんとかする」子どもの貧困』など著書多数。

駒崎弘樹
認定NPO法人フローレンス 代表理事。日本初の「共済型・訪問型」病児保育サービスで共働きやひとり親の子育てをサポート。小規模保育園、障害児保育園を運営。内閣府「子ども・子育て会議」委員、厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会座長などを務める。

 

 

 

ホームレス問題から「貧困」の問題へ

駒崎:今日は「子どもの貧困」というテーマで、日本の貧困問題の第一人者である湯浅さんにお話を伺っていきたいと思います。まず、これまでどんなことをされてきたのか、簡単にお話しいただけますか?

湯浅:はい。僕は阪神大震災があった1995年からホームレス問題に関わり始めました。以来、貧困の問題を中心に20年ぐらい活動してきました。

最初はずっと「ホームレス問題」に取り組んでいたのですが、だんだん相談に乗る人の層が変わってきたんです。

「アパートに住んでいるけど、食べていけない」という、ホームレスじゃない人が増えてきて、2000年代前半には、「もう “ホームレス問題” って言えないな」という感じになっていました。

リーマンショック後には日比谷公園で「年越し派遣村」を開き、その後、内閣府参与として、生活困窮者自立支援法の制定に携わりました。

※生活困窮者自立支援法…生活保護に至る前あるいは保護脱却の段階での自立支援を行うための法律

現在は、大学での授業・メディア出演・執筆活動に加えて、全国の「こども食堂」を訪ねたり、Yahoo!ニュースで「貧困問題」についての発信をしたりしていますね。

 

ひとり親支援を通じて、「子どもの貧困」問題に直面

湯浅:駒崎さんは、なぜ「子どもの貧困」問題に関わるようになったのですか?

駒崎:僕らが「子どもの貧困」問題に関わり始めたのは2008年頃からで、きっかけは「ひとり親支援」でした。

すごく困っているひとり親の方々は、フローレンスの病児保育サービスの月会費がなかなか払えない。

本当に必要な人に届いていないことを感じて、寄付を原資に、月々1000円払えば同じサービスを受けられるひとり親向けのメニューを作ったんです。

その時に、ひとり親の方に話を聞きに行きました。そうしたら、ダブルワークしたり、トリプルワークをしたりと、ギリギリの所まで、努力されていたんです。

生活保護を受給してもいいぐらいの方に、生活保護の制度を紹介しても、「私よりもっと頑張ってる人がいるんで」とか「私はそこまでじゃないんで」と言うんです。

その時に、病児保育以外の手段でも、経済的に厳しい家庭のサポートをできないか考えるようになりました。

湯浅さんが「ホームレス」から「貧困」の問題に入っていったように、僕は「ひとり親」の問題から「貧困」の問題に入っていきました。

 

子どもの貧困は、自己責任論を乗り越える

駒崎「子どもの貧困」とは奇妙な言い方で、これは世界では普通に「貧困問題」として語られるものです。

それが日本では「子どもの貧困」という言葉によって、議論に火がつきました。

「子どもの貧困」というと、いわゆる自己責任論から切り離して議論ができています。

「それはなんとかしなきゃ」とみんなの意識を喚起できる。そういう意味で、非常に優れた造語だと僕は思っています。

湯浅:そこは大きいですよね。ずっと大人の貧困問題をやってきて思うのは、自己責任論の強さです。

十数年ずっと戦ってきましたが、やっぱり根強い。簡単には越えられない山です。

だけど、子どもは生まれる家庭を選べない。自己責任論という大きな山を最初から乗り越えているんです。

湯浅:こども食堂は、みんなの意識が自己責任論を越えた一つの例です。地域の人たちが3、4人で自発的に取り組み始めて、一気に全国に広がった。

これはものすごいことですよ。こんなこと、大人の貧困問題ではありえません。

一方で、「貧困家庭の子ばかり集めてどうする」、「そんな場所には行きづらい」という偏見や誤解も生まれていて。

偏見や誤解を解きほぐし、「子どもの貧困」の問題を人々にちゃんと理解してもらうために発信を続けています。

 

「見えない貧困」への反省

駒崎:我々は「こども宅食」という取り組みの中で、行政の協力を得て、経済的に厳しい家庭にピンポイントで食品を届けることができているからこそ思うのですが、やっぱり「日本の貧困は見えない」んですよ。これは、もっと知られないといけないと思います。

経済的に厳しい家庭だからこそ、スマホを持っていないと仕事が探せなくて困ってしまう。

周りに経済的に厳しいと思われたくないからこそ、服装には気を遣っていることも多い。

「理想の貧困者」じゃないと世間に叩かれるというのも、ボロボロじゃないと支援するに値しないという感覚がどこかに存在している気がします。

湯浅:そこは自己責任論とも関係していると思います。やっぱり「見えない」というのは本当に見えない。

自分の主観に入ってこない、自分が見えないものに関しては、いないんだろうと思うのが普通で。

湯浅:また、自己責任論が非常に強いからこそ、僕らも「非の打ち所のない貧困」を打ち出してきたんですよ。

「8歳の女の子がティッシュをなめて甘いと言った」という話なら、厳しい貧困以外は貧困と認めない人たちも受け入れてくれる。

そういう例以外は叩かれておしまいだったので、怖くて出せなかったんです。

それは、自己責任論が強い社会だからこその工夫でもありました。

しかし、それは結局、絶対的貧困に近い相対的貧困しか可視化しなくて、それ以外の人は見えないままだった。だからそこには、僕も反省がある。結局そうやって発信してきたんだよな、僕らも、って。

駒崎:世間が貧困に抱くイメージを、自分たちが生みだしてきてしまったという反省もあるんですね。

湯浅:そうですね。でも、子どもの貧困は、「衣食住がままならないような状態だけが貧困である」という世間のイメージを乗り越えられると思うんですよ。

 

貧困によって、奪われるものがある

駒崎:それって、どうしたらいいんでしょう。先程の話は、僕も発信の担い手として、すごく分かる。

誰もつっこめない事例じゃないと社会を説得できないけど、それをやり続けていると論点がずれてしまう。

湯浅:インパクトがないと読んでくれないしね。

駒崎:そうなんです。「決して ”理想の貧困” ではない。しかし、困っている」ということを、どのように世の中に伝えていけばいいのか。

湯浅:難しいですよね。僕もわからない。

学校には行ってるし、きれいな服も着ている。訴え方として、インパクトがない。

だけど、やっぱり子どもだからこそ、「修学旅行に行けない」とか「給食がない夏休みになると体重が減る」とか、そういう話に反応してくれる人はいるんです。

だから、相対的貧困の概念は、「子どもの貧困」の問題を通して、きちんと世の中に定着させられるし、させていかないといけない。

「必ずしも餓死するわけではないけれど、奪われてしまうものがある」ということは、慎重に、いろいろな角度から発信していくことが大切だと思います。

 

「テンプレート化した貧困」からの脱却

湯浅:去年、NHKで、貧困家庭の女子高生が取り上げられましたよね。

番組の中では、パソコンが買えず、1,000円のキーボードだけしか買ってもらえなかったことが、相対的貧困の象徴としてクローズアップされたんです。

そうしたら放送後に、その子が「1,000円のランチを食べていた」とか、「『ワンピース』の映画を7回観た」とツイートしているといって「ねつ造された貧困だ」と炎上してしまいました。

実は僕、あの時、ずっとネットの反応を見てたんです。

もちろん批判の声は多かったんだけど、僕らみたいな専門家ではない普通の人たちが「あれも相対的貧困に入るんだ」と声を上げてくれていて。

「あんなの貧困じゃない」という声と「いや、あれも貧困なんだ」という声がけっこういい勝負してたんです。

これは大人の貧困問題に取り組んできた身からすると、ありえないことで。

大人だったら瞬殺ですよ。「死ぬわけじゃねえだろ、なんとかしろよ」って言われておしまい。

湯浅「子どもの貧困」だと、一般の人の中に当事者を擁護してくれる人がこんなにも現れるんです。

ものすごく心強かったし、やっぱり「子どもの貧困」は受け入れられやすいと思った。

駒崎:それは、我々はまったく気づかなかった視点です。

僕は、「日本はなんて情けないんだ」と絶望して、結構萎えてたんですけど。

大人の貧困問題でずっと世間の自己責任論と闘ってきた方からすると、「この流れいいじゃん」と感じるわけですね。

これは、勇気づけられる話です。やっぱり、きちんと「それは違う」と言う人の数を増やしていくべく、情報を提供し続けることが大切なんですね。

湯浅:そうですね。

最近では「テンプレート化した貧困」に対して、貧困家庭で育った子どもたち自身が違和感を語り始めて、それがメディアにも出るようになっている。

「子どもの貧困」を通して、相対的貧困の概念を定着させることは簡単ではないけれど、可能性はあるはずです。

 

こども食堂が提供する「隠れメニュー」

駒崎:情報発信をしていくことはもちろんですが、直接的に「子どもの貧困」問題を解決しようと思い、月島で「こども食堂」をやったことがあったんです。

やってみて気づいたのは、「こども食堂」に来てくれる子たちの中で、本当に困っている子が誰なのか見えないということでした。

「こども食堂」は何かあった時に相談できるような、地域の繋がりができるコミュニティとしては機能している。

しかし、それだけじゃだめだ。本当に困っている子たちにアプローチできる仕組みを作らなきゃいけないと思ったんです。

そうすると「困ってる子は見えない」という壁にぶつかってしまいました。

「こども食堂」を数多く見学に行かれている湯浅さんですが、このことについて、どのように思われますか?

湯浅:ほかの「こども食堂」でも、同じ課題があると思いますね。

まず、対象を限定しない「こども食堂」が圧倒的多数なんですよ。

「貧困家庭の子だけ」にすると、子どもたちが来にくくなるからハードルを下げてるんだけど、逆に言うと、誰が来てるのか分からないということです。

どんな子が来ているかわからないため、「隠れメニューを増やす」ことで対応している人たちもいます。

表立った支援メニューには書いていないけど、なにかサインが出てきたときに、制服のリユースの話につなげたり、児童扶養手当や就学援助といったサービスにつなげたりするなど、隠れメニューがパッと出せるようにしている。

あとは、「どなたでもどうぞ」といいつつ、学校と連携して就学援助家庭に案内を出せるように注力したり、オープンなこども食堂とは別の日にクローズドな「第二こども食堂」を始めて、そっちで気になる子の対応をするとか。

みなさん走っている中でいろんな問題にぶつかるので、「こども食堂」もバリエーションが生まれています。

 

行政と連携すれば、ピンポイントの支援ができる

駒崎:その話が聞けてすごくよかったです。「貧困は目に見えない」問題に関しては、我々もジレンマに陥っていて。

一方で、でも待てよ、行政は貧困家庭を知っているはずじゃないかという結論に至ったんです。

湯浅:低所得の世帯を把握して、既に支援していますからね。

駒崎:はい。行政が我々に協力してくれたら、貧困家庭の子どもたちにピンポイントで支援ができると思ったんです。

場所に足を運んでもらうということが「あの子のうちは貧しいらしい」という負のレッテル貼りにならないように、食品を“届ける”取り組みとして、「こども宅食」を考えました。

「こども宅食」はこども食堂の苗床から生まれたバリエーションのひとつであり、より対象にリーチできるように考えたものです。

対象にリーチするためには行政と協力する必要があり、文京区と連携することにしました。

 

裕福な人が多い地域ほど、格差が大きい

駒崎:文京区のようにブランド感がある地区には、裕福な人ばかりが住んでいるように思われています。

しかし文京区には、児童扶養手当と就学援助世帯が1000世帯ぐらいいるんです。

僕は先日、「こども宅食」の配送スタッフとして実際にご家庭に食品を届けに行ったんです。

到着したお宅は一見普通のマンションで、「ここの家族は生活に困っていないんじゃないかな?」と思って、ドアを開けてみると、電気もついていなくて真っ暗だし、家具は古く、傷だらけで。

よくよく話を聞いてみると、周りの子と同じように子どもを塾に行かせてあげるために、明かりをつけないで電気代を節約したり、食費を切り詰めるためにお母さんは1日1食にしていたりするんです。

本当にすごく一生懸命、子育てに向き合われていて、胸が締め付けられる思いでした。

湯浅東京は格差の大きな自治体ですよね。

駒崎:そうですね。

貧困の苦しみは「他人との比較」から生まれますよね。区長いわく、文京区は23区で「離婚率」が一番低いそうなんです。

だから、シングルマザーというだけで異質に見られてしまう。

「こども宅食」を始める前に、文京区にお住まいのシングルマザーにインタビューをしたら、「私は絶対にひとり親家庭だとバレないようにしています」と言われました。

周りにシングルマザーと伝えてもなかなか理解されないし、子どもがよくない目で見られるのが辛くて隠しているんだそうです。

隠されていると、気づけない。でも、「こども宅食」では行政と連携することで、今まで支援者が気づけなかった人たちにもピンポイントでアプローチできる。

これからは、SOSを出せないけど、支援を必要としている状況にある人の元に、支援者が自ら足を運ぶ「アウトリーチ」が重要になっていくと感じますね。

(執筆:矢嶋桃子/編集:菊川恵)


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