貧困家庭の子どもを救う「隠れメニュー」ー湯浅誠×駒崎弘樹ー

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2017.12.22

Megumi Kikukawa
菊川 恵
NPO Florence

NPO法人フローレンス所属。こども宅食広報担当。(Twitter:megumikikukawa

子どもの貧困問題は、世帯所得などの収入やお金の文脈で語られることも多いですが、注意すべき点はそこだけではありません。

経済状況の苦しさだけでなく、子どもたちから、体験や機会、居場所といった様々なものが「奪われる」ことにも大きな問題があります。

奪われたものを取り戻すこと、それが、民間が最も力を発揮できる分野なのではないか。

日本の貧困問題の第一人者である湯浅誠さんとフローレンス代表駒崎の対談から浮かび上がってくるのは、そんな問題解決のビジョンです。

皆さん一人ひとりができることは何か、考えていただくきっかけにもなるのではないでしょうか。

 

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湯浅誠
1969年東京都生まれ。日本の貧困問題に取り組む第一人者。2008年末に日比谷公園で行われた「年越し派遣村」の村長としても知られる。元内閣府参与を経て、現在。法政大学現代福祉学部教授。『反貧困』『「なんとかする」子どもの貧困』など著書多数。

駒崎弘樹
認定NPO法人フローレンス 代表理事。日本初の「共済型・訪問型」病児保育サービスで共働きやひとり親の子育てをサポート。小規模保育園、障害児保育園を運営。内閣府「子ども・子育て会議」委員、厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会座長などを務める。

 

子どもを通して、親の貧困に光を当てる

駒崎:ホームレス支援や年越し派遣村など、貧困問題の解決に取り組んできた湯浅さんですが、「子どもの貧困」問題について、どのように思われますか?

湯浅子どもの貧困問題は、親の貧困問題に別の角度から光を当てるものだと思います。

「子どもの貧困というけど、大人の貧困問題だ」と認識する人が、一般の人の中にも出てきたんですよ。「子どもの貧困」を通じて、親である大人の貧困が注目されはじめているんです。

子育てをワンストップで支援する、こども版地域包括ケアの必要性

駒崎:そうですよね。子どもの貧困と大人の貧困はつながっている。

少し深掘りしますが、以前あった「こども手当」のような現金給付より、サービスの整備や拡充の方を強めた方がいいということですかね?

湯浅:順番から言えば、そうですね。やっぱり現金給付はバラマキのイメージがついて回るし、ベーシックインカムも話題だけれど、そんなに簡単じゃないと思うので。

駒崎:それは僕も同感です。だからこそ、我々に求められているのは、今足りていないインフラを整えていくことだと思ってます。

たとえば、高齢者の場合は「地域包括ケア」が機能しています。

地域包括センターという拠点があって、保健師や社会福祉士、主任ケアマネジャーが配置され、さまざまな分野から総合的に高齢者とその家族を支えています。

相談をした時に、行政や関係機関をたらい回しにされることなく、ワンストップで対応してもらえますよね。

しかし、地域包括ケアの子ども版はあまり存在していないんですよ。

こども食堂も、保健師さんも、児童相談所も、それぞれが別々に頑張っているけど、なかなか情報共有が難しい。

そんな状況を打破するためにも、「子どもの貧困」対策のひとつとして、子ども版地域包括ケアが実現できたらと思うんですよね。

子どもや障害者など、様々な人をサポートする地域支援を

湯浅:それはいいと思います。「子どもの貧困」対策の文脈でも、子育て支援計画はワンストップで、という機運が出てきているので。

ただ、高齢者の地域包括センターと同じレベルで子ども版を整備しようとしたら、政府が提唱している「人づくり革命」(※)の財源2兆円分をすべて使ったとしても足りません。

※人づくり革命:政府で検討されている2兆円規模の政策パッケージ。幼児教育、高等教育の一部無償化などが施策としてあがっている。

厚労省では今、高齢者・障害者・児童への総合的な地域包括支援体制を整えようとしているので、その枠組みの中で実践できるのが望ましいんじゃないかと思います。

特に地方では、介護予防の一環として「こども食堂」を高齢者と子どもたちの交流の場にするといいと思います。「こども食堂」というのは、半分は地域づくりの面がありますからね。

駒崎:それは、おもしろいですね。

未就学児のソーシャルワークが足りない

駒崎:僕は、そこに大切な要素として「ソーシャルワーク」があると思っています。生活保護の分野にはケースワーカーが、学校にはスクールソーシャルワーカーがいるじゃないですか。

でも、生まれてから学校に入学するまでの子どもを対象にしたソーシャルワークというのは基本的にありません。

湯浅:保健師ぐらいだよね。

駒崎:保健師がすべての家庭に向けて、「こんにちは赤ちゃん事業」(※)をしてますが、そこで課題がないと、あとは小学校に行くまで何もないという状況になっています。

未就学児へのソーシャルワークを位置づける必要があると思いますね。

※こんにちは赤ちゃん事業:生後4か月までの乳児のいるすべての家庭を訪問し、様々な不安や悩みを聞き、子育て支援に関する情報提供等を行い、必要に応じて適切な支援につなげる取り組み。

子ども一人ひとりに合わせた支援の必要性

湯浅:はい、おっしゃるとおり。

駒崎:「こども食堂」や「こども宅食」など、「食事」というのは、あくまでも一つの切り口。そこから困りごとの相談に乗って、支援につなげていくという機能がないと、結局、支援が点で終わってしまう。

湯浅:表立って「支援メニュー」として掲げていないけど、なにか問題が発覚した時にすぐに情報提供できたり、支援につなげたりできる「隠れメニュー」があるといいですよね。

駒崎:一部のこども食堂には「隠れメニュー」があって、それをつなぐ人がいますよね。

子どもの貧困を単発で解決する手法はない。そのため、その子に合わせてカスタマイズした支援を行うことが望ましいと思います。

しかし、そういった子ども分野のソーシャルワークが社会にはまだ根付いていないように思います。

求められているのは「コーディネートする力」

湯浅:いま言ったようなソーシャルワークは、大人の分野でもあまりないですよ。

もちろん制度はいろいろあるけれど、それがその人の課題にぴったり合う解決策ではないことは、往々にしてあります。

そこで、制度を組み合わせたり、新しい解決策を作ったりすることが必要になる。私たちは、それを「ソーシャルアクション」と呼んでいます。

貧困問題は、その人の課題にぴったり合う解決策がないから、困りごとが生まれていくんです。

だから、貧困問題を解決しようと思ったら、既存の仕組みでは解決できないことにどう対応するかが出発点になります。

これには、その人の課題を紐解き、様々な資源につなげていくコーディネート力が必要です。

しかし、ソーシャルワーカーがみんなそれができるかというと、そうでもない。

これからは、ソーシャルワーカーがもっとコーディネート力をつけていかないといけないと思います。

コーディネートは評価しづらい

駒崎:そういったコーディネートは非常に重要ですが、そこには「どこからもお金が出ない」という問題がありますよね。

湯浅:はい。強く同意(苦笑)

駒崎:これはやっぱり問題で。本当に困っている人が支援メニューにたどり着けない場合、必ずコーディネーターが必要

でも、コーディネートをやってもお金にならないとしたら、誰もやらない。だからメニューがあるだけの状態になってしまう。

「福祉サービスを困っている人にどう届けるか」という問題をどうにか解決しないといけないですよね。

湯浅:内閣府参与の時に「パーソナルサポートモデル事業」というのをやったんです。

社会福祉士や臨床心理士などの専門職の上に、コーディネート力のあるスタッフを置いて、チームとして動く。そこにお金をつけようとしたんだけど、難しかった。

それは、コーディネートする人の成果を見える化する指標がないからなんです。

「10件対応して3件就労できた」というように、数字で見えるものは分かりやすい。

でも、コーディネートは数字では見えないから、分かりづらい。その結果に対して、コーディネーターが何%ぐらい貢献しているかと言われても、分からないですよね?

「コーディネートされた」と思わせないのが、一番うまいコーディネートだし。

駒崎:そうですね。あたかも、サービスの利用者自身の決断かのように導いていくのが、いいコーディネーターですよね。

湯浅:そうなんです。すると、はたから見ると何をやっているか分からない人に、高いお金が出るという話になってしまう。それで、「暗黙知を可視化する」ための指標がいるだろうと。

うまく支援が行き届いている地域では、「あの人がいるから、なんとかなっている」とみんなに言われている人がいます。その人は何か重要なことをしているんだけど、彼自身は自覚していない。

要するに、職人芸でやっているんです。しかも、本人が言語化できない。

そのため、暗黙知を可視化するためには、誰かがそれなりの長期間、その地域のコーディネーターにくっついて、横で見ながらポイントを拾い上げていく必要があるんですけど、まあ、そこには当然お金がつかず。宿題のまま終わっています。

駒崎:それは湯浅さんの世代から、我々の世代に託された宿題の一つですね。

湯浅:ぜひ解決してください。

貧困によって、奪われた機会を取り戻す

駒崎:我々が行っている「こども宅食」をどういった指標で評価しようか考えていて。

こども宅食」は子どもの貧困問題解決のためにつくった事業です。

相対的貧困率を下げるには、「収入を増やす」方法がありますが、これはかなりマクロな問題で、民間で取り組むだけではなかなか成果が出にくい。

それで考えたのが「貧困によって、奪われた機会を取り戻す」というアプローチ。

たとえば、塾に行けないのであれば、無料塾を作れば塾に行けるようになりますよね。

駒崎:このように、たとえ世帯の年収が上がらなくても、いろいろな無料サービスや行政サービスを使うことで、子どもたちが奪われた機会を取り戻すことができる。これはかなり解決方法があると思うんです。

こども宅食」の場合は、利用家庭の奪われた機会を取り戻すために、どの社会資源をつなげたか「つなげた数」を指標にできるのではないかと考えています。

湯浅:おっしゃる通り。

やっぱり民間の力を一番発揮できるのはそこじゃないですかね?体験や関わる時間の提供とか。

 

子どもの居場所には4つの要素がある

湯浅:その話にもつながるのですが、「子どもの居場所」には4つの要素があるんです。

一つ目は、居場所そのものが提供する支援メニューですね。こども食堂なら食事を提供するとか、無料塾なら勉強を教えるとか。でも、それは1つの要素に過ぎない。

二つ目は「体験」。別に「キッザニア」に連れていってお仕事体験させなくてもいいんです。

働いてる大人と出会ったことがない、生身の大学生と遊んだことがないという子がたくさんいる。出会ったことがない大人と出会うことも必要な体験です。

湯浅:三つ目は「時間」。多くの人は物心つく前の時期に、親が全力で自分に関わってくれて、それなりに安定して、自立心を持って育っていく。

それができなかった人は、どこかの段階で人に全力で関わってもらう時間がないと、やっぱり安定しない。自分の中に自己を作れないと僕は思ってるんです。

駒崎:それは、児童発達の分野では、愛着という言葉で示されています。僕もその考え方には納得感がありますね。自分にじっくり関わってもらった経験が、人格の基礎を作るんじゃないかって。

湯浅:そうなんですよ。高校生になったから、大人になったから、もう必要ないということではない。

愛着形成ができなかった人には、たとえ何歳であっても「他者から時間をかけて関わってもらうこと」が必要だと思います。

湯浅:四つ目が「トラブル対応」です。アクシデントが起きた時に対応する機能のことです。

一般家庭なら家族が病気やけがに対応することが当てはまりますね。貧困家庭だと、場合によっては、困りごとが発生した時に様々な社会資源につなぐことが必要になるかもしれません。

この4つがすべて家庭にそろっていれば、家庭がその子にとっての居場所になる。

ひとつでも欠けている家庭なら、社会的にサポートしたり、代替したりできるといい。

少しでも埋めることができれば、子どもにとっての居場所になるんです。

駒崎:我々、民間の団体が力を発揮できるところだと思います。

湯浅:そうですね。特に「体験」「時間」はね。

駒崎:これはどんどん埋めていきたいし、埋めていかなきゃと思いました。

 

目指すはサザエさんの「三河屋さん」

最後に、我々が運営するこども宅食において、アドバイスや期待することをいただけますか?

湯浅:初年度は150世帯で始めたんですよね?

駒崎:はい。実は申し込みは450世帯あったので、これから3倍に増やしていかないといけない状況です。

湯浅:ご家庭からの相談は出てきてます?

駒崎:そうですね。配達の時の会話から拾ったり、アンケートを取ったりしていますね。

湯浅こども宅食に期待することのひとつは、やっぱりサザエさんの「三河屋さん」の役割ですよね。

配達に行ったときに、どれだけ雑談できるか、悩みごとや困りごと引き出せるかが大きいんじゃないですか。

配送を担当しているのは誰なんですか?

駒崎:「こども宅食」の配送先だと周りからわからないように、ココネット株式会社という配送会社にお願いしています。

ココネットは、配送をしながら高齢者の見守りを行うなど、福祉的な配送をしているところなんです。

湯浅:その方たちに「どんな話を聞いたのか」「こんなことも聞けるといい」といった、研修やワークショップができたらいいと思いますね。

気にかけてもらえることが嬉しい

湯浅:それと、想定を3倍も上回るたくさんの利用申込があること自体が、世の中的には驚きだと思うので、そこはやっぱり発信していっていただきたい。

世の中全体の見方としては、貧困状態にある人というと、まだまだ「支援を拒否する人たち」「困った人たち」というイメージが強いけど、実際は、喜んでくれるケースもあるんですよね。

過去には、生活保護家庭の子どもの学習支援でも、そういった事例がありました。

事業を始める前は「うちの子は勉強なんてしなくていい」と拒否されると思っていたけど、実際に家庭訪問したら、みんな喜んでくれたんです。

自分たちは「見捨てられている」と思っていたから、自分のことを気にかけてくれる人がいることが嬉しかったと。

駒崎こども宅食を届けた家庭でも、「食べ物ももちろん嬉しかったのですが、ひとり親家庭を応援したいという暖かい心が何よりも嬉しいです」という声がありました。

湯浅:あとは、利用家庭の方々同士が顔を合わせられる場づくりも、ゆくゆくはやれるといいと思いますね。

相談の掘り起こしと、必要な支援につなげていくこと。私はこれを仲間づくりと言っています。それができると、さらに素晴らしいものになると期待しています。

駒崎:ありがとうございます。

すばらしいアドバイスもいただき、現場の実践から政策まで、縦横無尽にご活躍されている、湯浅さんの引き出しの多さを改めて感じた時間でした。本当にありがとうございました。

(了)

(執筆:矢嶋桃子/編集:菊川恵)

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