コロナ禍での食支援・情報提供の有効性が明らかに! こども宅食の成果を示す「インパクト・レポート」を公開
文京区内の経済的に困窮する子育て世帯へ2ヶ月に1回定期的に食品をお届けしている「こども宅食」を運営する「こども宅食コンソーシアム」は、文京区内約650世帯のこども宅食利用家庭に行ったアンケート調査結果をもとに、事業が生み出した効果・成果に加え、事業の実施状況や利用家庭の実態やニーズを取りまとめた、2020年度インパクト・レポートを公開します。
インパクト・レポートは2018年度分から毎年作成しており、今回で3回目となります。
支援を行うだけではなく、社会的な効果や価値を評価し、事業改善に活かす
文京区とNPO等、7つの組織が官民協働で行う文京区こども宅食は、経済的に困窮する子育て世帯に食品等をお届けし、困り事があった際には行政の支援等につなげる活動を行っています。
また、その活動がどのような効果や価値を生んでいるかを評価し、事業改善に活かすため、こども宅食コンソーシアムでは以下の2つの目的を持って「社会的インパクト・マネジメント」を行っています。
①社会的インパクト評価により、事業が生み出す社会的価値を可視化し、検証すること
②社会的インパクト・マネジメントを通して、こども宅食事業の運営改善をすること
インパクト・レポートでは、利用者を対象に実施したアンケート等の分析結果をもとに、ロジックモデル(事業や組織が最終的に目指す変化・効果の実現に向けた事業の設計図)を用いた事業実施によるプロセス管理や、ロジックモデル上に設定した成果の検証を行いました。
調査方法 オンラインアンケート(一部紙面にて実施)
調査実施期間 2020年9月24日から10月23日まで
調査対象総数 653世帯*
回収総数 466世帯**
回収率 71.3%
*評価対象期間中に宅食を利用したことがある世帯。なお、第4期(2020年10月)より新たに利用する140世帯を含めたアンケート調査対象総数は793世帯
**第4期から(2020年10月から)の利用世帯も含めた回収総数は557世帯
2020年度インパクト・レポートの全文(PDF/49頁)
アンケート票
この調査では、①計画フェーズ、②実行フェーズ、③効果の把握フェーズ、の3つのフェーズごとに評価を行っています。
①計画フェーズにおける評価:
食品を送るアプローチはコロナ禍でも効果的
計画フェーズにおいては、利用家庭には物理的・精神的な理由で一般的な支援が届きにくい人が一定数いることから、「食品を送ることで、支援が届きにくい人とのつながりを作り出す」というアプローチは効果的であることが改めて確認されました。
また、新型コロナウイルス感染症の影響により約6割の世帯が「生活が苦しくなった」と回答しており、直接食品等を届けるアウトリーチ型(※)の支援がコロナ禍においてより一層有効であることが示されました。
(※アウトリーチとは:福祉分野では、「支援が必要であるにもかかわらず届いていない人に対し、行政や支援機関などが積極的に働きかけて情報・支援を届けるプロセス」のこと)
②実行フェーズにおける評価:
コロナ禍で緊急支援を実施、LINEを活用した情報提供の強化
実行フェーズにおいては、新型コロナウイルス感染症の影響により利用家庭が改めて経済的困窮に陥ることを防ぐため、通常の配送に加え、臨時便・増量便の配送などの緊急支援を迅速に実施しました。利用世帯数及び配送回数が増加したにも関わらず、寄付企業の協力により、1世帯あたりの配送量はこれまでの数値を維持することができました。コロナ禍におけるアウトリーチ型の支援へのニーズの高まりに対して、寄付者の理解・賛同が得られた結果と考えています。
また、LINEを活用した情報提供を強化し、利用者にとって有益な情報を分かりやすく配信しました。
③効果の把握フェーズにおける評価:
「心理的ストレスの減少」に引き続き大きく寄与、LINEを活用した情報提供の有効性が示される
事業の効果(アウトカム)については、保護者・家庭の「食事内容の改善」、「心理的ストレスの減少」、「食費負担の軽減」の3項目において顕著な結果が見られました。特に、「心理的ストレスの減少」においては、保護者の84%にポジティブな変化が見られ、「気持ちが豊かになった」「社会とのつながりが感じられるようになった」との回答が多く、あらためて、こども宅食の主要な成果であることが確認できました。コロナ禍で人との関わりが制限される中、このことをより強く感じた人もいたようです。
また、2020年度に強化した情報提供は、利用者への支援、サービスへのアクセス、事務局との双方向のコミュニケーションにつながっています。LINEを活用した情報提供には約70%がアクセス、約40%がさらなる情報収集をしており、有効性が示されました。これらは、「社会資源を知っている、利用している」、「支援者との接点が増える」のアウトカムに今後寄与すると期待しています。
子ども・若者貧困研究センター長 阿部 彩氏の総評
文京区こども宅食の開始時からアドバイザーを務めて頂いている東京都立大学教授/子ども・若者貧困研究センター長の阿部 彩さんからは、以下のような総評を頂きました。
阿部 彩氏(本プロジェクトアドバイザー/東京都立大学 人文社会学部人間社会学科 教授 兼 子ども・若者貧困研究センター長)
*アドバイザー・阿部彩さんコメント2020年度は、誰にとっても厳しい一年でした。しかし、コロナ禍による経済的な影響は、所得が低い世帯ほど大きいことがわかっており、今回の子ども宅食プロジェクト利用者のアンケートにおいてもその実態が明らかになっています。コロナ禍によって、利用者層の約半数(43.6%)が「収入が減った(減る見込みになった)」に「あてはまる」と回答し、さらに17.4%が「ややあてはまる」と回答していることや、「失職した、休業した」という利用者も「あてはまる」が13.1%、「ややあてはまる」が7.4%と合わせると2割となっていることは、改めて今回の問題の大きさを物語っています。多くの「食堂型」の食の支援が思うように活動ができない中、セオリー評価にも含まれるように「アウトリーチ型」の支援であるこども宅食は非常に有効な支援手法であったことが推測されます。
また、LINEを活用した情報提供は、今年度は特に有効であったのではと思います。さまざまな制度や支援策が拡充され、変更していく中で、その情報を利用者に届けることは宅食と同様に重要です。2020年度は、その他にも臨時の追加支援や利用対象世帯の拡大など臨機応変に対応しており、まさに本プロジェクトの真骨頂が試され、それに応えたという感があります。本プロジェクトが多くの団体と文京区のコンソーシアムという比較的に大きな組織であるにもかかわらず、このような対応ができたことは稀に見る素晴らしい協働だと思います。
2021年度は、コロナ禍による経済的影響がじわじわと浸透し、一方で、政府からの支援策は少なくなっていくと考えられます。子ども宅食プロジェクトのさらなる活躍を期待いたします。
2021年度、文京区こども宅食事業が目指すもの
私たちは、今回のデータをもとに、引き続き食品のお届けをきっかけにつながりをつくり、見守りながら、必要に応じて地域の社会資源にもつなぐことを目指して、事業の改善・進化に努めてまいります。
2021年度も、ふるさと納税の仕組みを使って文京区こども宅食の運営資金を募っています。ご支援のほど、よろしくお願いいたします。
【親子を孤立させない。つながり、見守り、支えていく。文京区「こども宅食」】
※こども宅食は登録商標です