利用者の約8割が「生活困難層」|チャット相談で「子育て・教育」関係など延べ239件の相談に対応~こども宅食の成果を示す「インパクト・レポート」を公開~
文京区内の経済的に困窮する子育て世帯へ2ヶ月に1回定期的に食品をお届けしている「こども宅食」を運営する「文京区こども宅食コンソーシアム」(https://kodomo-takushoku.jp/)は、文京区内約800世帯のこども宅食利用家庭に行ったアンケート調査結果をもとに、事業が生み出した効果・成果に加え、事業の実施状況や利用家庭の実態、ニーズを取りまとめた、第6期(2022.10~2023.9)インパクト・レポートを公開します。
インパクト・レポートは2018年度分から毎年作成しており、今回で6回目となります。
支援を行うだけではなく、社会的な効果や価値を評価し、事業改善に活かす
文京区とNPO等、7つの組織が官民協働で行う文京区こども宅食は、経済的に困窮する子育て世帯に食品等をお届けし、困り事があった際には必要な支援等につなげる活動を行っています。
また、その活動がどのような効果や価値を生んでいるかを評価し、事業改善に活かすため、文京区こども宅食コンソーシアムでは以下の2つの目的を持って「社会的インパクト・マネジメント」を行っています。
①社会的インパクト評価により、事業が生み出す社会的価値を可視化し、検証すること
②社会的インパクト・マネジメントを通して、こども宅食事業の運営改善をすること
インパクト・レポートでは、利用者を対象に実施したアンケート等の分析結果をもとに、ロジックモデル(事業や組織が最終的に目指す変化・効果の実現に向けた事業の設計図)を用いた事業のプロセス管理や、ロジックモデル上に設定した成果の検証を行いました。
「社会的インパクト・マネジメント・ガイドラインVer.2」(2021年社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ作成 より引用)
調査方法 オンラインアンケート(一部紙面にて実施)
調査実施期間 2023年9月22日から10月23日まで
調査対象総数 863世帯*
回収総数 526世帯
回収率 61 %
*2017年10月‐2023年9月に文京区こども宅食を利用したことがある世帯および2023年10月より新たに利用する世帯
第6期(2022.10~2023.9)インパクト・レポートの全文(概要版:PDF/37頁|詳細版:PDF/23頁)
アンケート票
この調査では、①計画フェーズ、②実行フェーズ、③効果の把握フェーズ、の3つのフェーズごとに評価を行っています。
フェーズ | 評価項目 |
①計画 | ニーズ評価 ・利用世帯が抱える課題、求めるニーズは何か。 ・本プロジェクトがその課題解決に寄与するものとなっているか。 |
セオリー評価 ・本プロジェクトのアプローチは利用者にとって効果的であるか。 ・変化をもたらすためのアプローチと成果(アウトカム)とのつながりは妥当か(ロジックモデルの検証)。 |
|
②実行 | プロセス評価 ・事業は計画どおり実施されたか。 ・事業による結果(アウトプット)は達成されたか。 ・実施体制は適切か。 |
③効果の把握 | アウトカム評価 インパクト評価 ・本事業実施により何が達成されたか。 ・どんな成果(アウトカム)が生まれたか。 |
①計画フェーズにおける評価:
利用世帯の約80%が生活困難層~物価高騰の影響で、調査開始後初めて困窮層が50%を超える~
計画フェーズにおけるニーズ評価では、利用世帯の約80%が生活困難層(①困窮層+②周辺層)に該当することが確認されました。経済的な困窮に加えて、子どもの生活面(所有物、体験)においても厳しい環境にある世帯が一定数おり、「体験の機会」や子ども向けの物品の提供もニーズに対応していることが示されています。また、利用世帯の中には経済面、生活面で様々な課題を抱えており、物理的・精神的な理由で一般的な支援が届きにくい人が一定数いることから、「周囲に知られないかたちで食品を送り、定期的な見守りや状況に応じた必要な支援につなげる」というアプローチは効果的であることが確認されました。
今回、調査開始後初めて①困窮層が50%を超えており、改めて利用者の困難度が高まっている恐れがあることが確認されました。
利用世帯は厳しい生活状況にあり、支援が必要な世帯となっています。これに加えて、物価高騰が続いていることからさらに困窮度が高まっている状況が見られており、継続的な支援が必要な世帯と考えられます。
②実行フェーズにおける評価:
月に複数回のプッシュ型の情報配信~LINEを活用した情報提供・コミュニケーションの強化~
実行フェーズにおいては、利用世帯の既存の支援制度・サービスの利用率があまり高くないことから、情報へのアクセスが⾼まるようLINEでの情報提供を積極的に実施しました。その結果、利用世帯から相談や問い合わせなどが届くようになり、利用世帯との双方向のコミュニケーションが取れるようになってきています。また、文京区近隣で開催される子育て支援イベントやニーズにあった社会資源の情報を積極的に提供しています。宅食からの情報提供により、実際に地域資源を活用する事例も生まれてきています。
③効果の把握フェーズにおける評価:
困りごとや悩みを聞くチャット相談を開始し、延べ239件に対応
「心理的ストレスの減少」に引き続き大きく寄与
事業の効果(アウトカム)については、保護者・家庭の「食事内容、食に関する課題が改善される」、「心理的ストレスが減少する」、「食費の負担が軽減される」「支援者との接点が増える」などの項目において顕著な結果が見られました。
「心理的ストレスの減少」においては、保護者の気持ちについて、宅食の利用前後での変化量をみたところ、「安心して生活できている(40.8%UP)」、「社会とのつながりを感じる(39.1%UP)」との回答が多く、宅食の利用が気持ちの変化に影響していることが伺えました。
【ご家庭の声】
支えてもらっているということを実感し、感謝する気持ちが生まれた。
宅食が届いたらいつも子どもと開きます。わぁ〜こんなのもある!あんなのもある!すごーい!と、楽しみに子どもも喜んでいます。
また、約70%の人が宅食の利用により食費を節約できたと回答しており、食費の負担軽減に一定程度貢献していることが示されました。普段購入しない、嗜好品や少し高価なものを購入することができたという回答も多く、それが気持ちの豊かさや安心感など、心理面での変化にもつながっている様子も伺えます。
「助けを求めることができる」「適切な社会資源とマッチングされる」などの事業の効果(アウトカム)については、2022年10月より、利用者の子育てや暮らしにおける困りごとを聞くチャット相談を開始しました。
平日9:00~18:00で社会福祉士・精神保健福祉士・看護師・心理士など資格をもつ専門スタッフが対応し、利用者にとって対面では相談しづらい困りごとや悩みを気軽に相談できる機会や、支援を求めることができる機会を増やしています。
その結果、2022年10月から2023年9月までに延べ239件の相談が寄せられており、行政や地域の支援機関と連携しながら支援を提供することができました。相談内容としては、「子育て・教育」に関するものが半数を占めましたが、就労や病気・障害、家族関係等、多様な相談が寄せられています。
日本社会事業大学社会福祉学部福祉援助学科 講師 新藤健太氏の総評
文京区こども宅食のアドバイザーを務めていただいている日本社会事業大学社会福祉学部福祉援助学科 講師 新藤健太氏からは、以下のような総評を頂きました。
新藤健太氏(本プロジェクトアドバイザー/日本社会事業大学社会福祉学部福祉援助学科 講師)
*アドバイザー・新藤健太氏コメント
第6期の文京区こども宅食プロジェクトのインパクト・レポートを拝見し、本事業がどのようにして文京区の子育て世帯、特に生活に困難を抱えているであろう世帯を支えているのかがよくわかりました。
前回のレポート時点では若干の利用世帯数減少が報告されていましたが、今回のレポートでは2024年6月時点でこれまでの実績を大きく上回る822世帯の利用申し込みがあり、さらに、利用世帯の生活困難度もより一層厳しい状況になっていることが報告される等、引き続き支援の必要性が高いことがうかがえました。そのような中、多くの利用世帯において「食事内容、食に関する課題が改善される」、「心理的ストレスが減少する」、「食費の負担が軽減される」のアウトカムに改善の傾向がみられたことが報告され、また、限定的ではあるもののその他のアウトカムについても一定の改善が報告されています。これらのことから本事業の社会的意義は小さくないことが改めて確認できました。
一方で、本レポートでは「6年間の取り組みを振り返って」として、今後の事業展開に向けた総括的な振り返りが行われたことが報告されました。ここでは本事業の特徴・特色であるいくつかのことについて振り返りが行われ、良かった点や課題点等が議論されたとのことです。こうして常により良い事業展開を目指す姿勢は大切です。
こうした振り返りを積み重ね、本事業がより力強く文京区の子育て世帯、とりわけ生活に困難を抱える世帯の支えになっていくことを期待しています。
2024年度、文京区こども宅食事業が目指すもの
私たちは、今回のデータをもとに、引き続き食品のお届けをきっかけにつながりをつくり、見守りながら、必要に応じて地域の社会資源にもつなぐことを目指して、事業の改善・進化に努めてまいります。
2024年度も、ふるさと納税の仕組みを使って文京区こども宅食の運営資金を募っています。ご支援のほど、よろしくお願いいたします。