オンラインでの体験機会提供や情報配信を強化! こども宅食の成果を示す「インパクト・レポート」を公開
文京区内の経済的に困窮する子育て世帯へ2ヶ月に1回定期的に食品をお届けしている「こども宅食」を運営する「こども宅食コンソーシアム」は、文京区内約700世帯のこども宅食利用家庭に行ったアンケート調査結果をもとに、事業が生み出した効果・成果に加え、事業の実施状況や利用家庭の実態やニーズを取りまとめた、2021年度インパクト・レポートを公開します。
インパクト・レポートは2018年度分から毎年作成しており、今回で4回目となります。
支援を行うだけではなく、社会的な効果や価値を評価し、事業改善に活かす
文京区とNPO等、7つの組織が官民協働で行う文京区こども宅食は、経済的に困窮する子育て世帯に食品等をお届けし、困り事があった際には必要な支援等につなげる活動を行っています。
また、その活動がどのような効果や価値を生んでいるかを評価し、事業改善に活かすため、こども宅食コンソーシアムでは以下の2つの目的を持って「社会的インパクト・マネジメント」を行っています。
①社会的インパクト評価により、事業が生み出す社会的価値を可視化し、検証すること
②社会的インパクト・マネジメントを通して、こども宅食事業の運営改善をすること
インパクト・レポートでは、利用者を対象に実施したアンケート等の分析結果をもとに、ロジックモデル(事業や組織が最終的に目指す変化・効果の実現に向けた事業の設計図)を用いた事業実施によるプロセス管理や、ロジックモデル上に設定した成果の検証を行いました。
「社会的インパクト・マネジメント・ガイドラインVer.2」(2021年社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ作成 より引用)
調査方法 オンラインアンケート(一部紙面にて実施)
調査実施期間 2021年9月25日から10月23日まで
調査対象総数 723世帯*
回収総数 465世帯**
回収率 64%
*評価対象期間中に文京区こども宅食を利用したことがある世帯(第5期(2021年10月)より新たに利用する108世帯を含めたアンケート調査対象総数は830世帯)
**第5期から(2021年10月から)の利用世帯も含めた回収総数は542世帯
2021年度インパクト・レポートの全文(PDF/51頁)
アンケート票
この調査では、①計画フェーズ、②実行フェーズ、③効果の把握フェーズ、の3つのフェーズごとに評価を行っています。
フェーズ | 評価項目 |
①計画 | ニーズ評価 ・利用世帯が抱える課題、求めるニーズは何か。 ・本プロジェクトがその課題解決に寄与するものとなっているか。 |
セオリー評価 ・本プロジェクトのアプローチは利用者にとって効果的であるか。 ・変化をもたらすためのアプローチと成果(アウトカム)とのつながりは妥当か(ロジックモデルの検証)。 |
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②実行 | プロセス評価 ・事業は計画どおり実施されたか。 ・事業による結果(アウトプット)は達成されたか。 ・実施体制は適切か。 |
③効果の把握 | アウトカム評価 インパクト評価 ・本事業実施により何が達成されたか。 ・どんな成果(アウトカム)が生まれたか。 |
①計画フェーズにおける評価:
周囲に知られないかたちでのアウトリーチ型支援は効果的
計画フェーズにおいては、利用世帯の約77%が生活困難層(①困窮層+②周辺層)に該当することが確認されました。経済的な困窮に加えて、子どもの生活面(所有物、体験)においても厳しい環境にある世帯が一定数おり、「体験の機会」や子ども向けの物品の提供もニーズに対応していることが示されています。また、利用世帯の中には経済面、生活面で様々な課題を抱えている世帯や物理的・精神的な理由で一般的な支援が届きにくい人が一定数いることから、「周囲に知られないかたちで食品を送り、定期的な見守りや状況に応じた必要な支援につなげる」というアプローチは効果的であることが改めて確認されました。
さらに、新型コロナウィルス感染症の流行により、経済面、生活面への影響を長期にわたって受けている世帯や家計が急変した世帯が一定数おり、直接食品等を届けるアウトリーチ型(※)の支援がコロナ禍においてより一層有効であることが示されました。
(※アウトリーチ:福祉分野では、「支援が必要であるにもかかわらず届いていない人に対し、行政や支援機関などが積極的に働きかけて情報・支援を届けるプロセス」のこと)
②実行フェーズにおける評価:
LINEを活用した情報提供・コミュニケーションの強化、多様化する利用者への対応
実行フェーズにおいては、利用世帯の既存の支援制度・サービスの利用率があまり高くないことから、情報へのアクセスが⾼まるようLINEでの情報提供を積極的に実施しました。その結果、情報提供を行う中で利用世帯から相談や問い合わせなどが届くようになり、利用世帯とのコミュニケーションが取れるようになってきています。
日本語を不自由とする利用者に配慮した対応も進んできています。
③効果の把握フェーズにおける評価:
「心理的ストレスの減少」に引き続き大きく寄与、社会資源の認知・利用、よりよい家族関係にもつながる
事業の効果(アウトカム)については、保護者・家庭の「食事内容の改善」、「心理的ストレスの減少」、「余剰時間の増加」、「食費負担の軽減」の4項目において顕著な結果が見られました。特に、「心理的ストレスの減少」においては、保護者の84%にポジティブな変化が見られ、「気持ちが豊かになった」「社会とのつながりが感じられるようになった」との回答が多く、あらためて、こども宅食の主要な成果であることが確認できました。
また、回答世帯の約30%に子どもの体験や所有物の欠如があることから、こども宅食では親子で過ごす体験の時間につながるよう、様々な「体験の機会」の提供を行っています。新型コロナウィルス感染症の流行により行動制限が続いていること、また経済的・時間的制約により習い事を諦めている家庭も一定数いることから、新たな取り組みとして、オンラインでの継続的なダンスレッスンの提供も行いました。参加者の感想からは、ダンスレッスンの機会が子どものみならず親の気持ちの変化にもつながっていることがうかがえました。
さらに、こども宅食事務局からのLINEでの情報配信を受けて、約70%が情報へのアクセスや制度の利用などの行動につながっていることがうかがえました。特に学習・教育支援に関する情報へのアクセス率が高まっており、「制度を利用した」といった声も寄せられるようになっています。
子ども・若者貧困研究センター長 阿部 彩 氏の総評
文京区こども宅食の開始時からアドバイザーを務めていただいている東京都立大学教授/子ども・若者貧困研究センター長の阿部 彩 氏からは、以下のような総評を頂きました。
阿部 彩 氏(本プロジェクトアドバイザー/東京都立大学 人文社会学部人間社会学科 教授 兼 子ども・若者貧困研究センター長)
*アドバイザー・阿部 彩 氏コメントさまざまな統計調査によると、新型コロナウィルス感染症拡大の影響は2020年は想定していたよりも小さいことがわかっています。しかし、より懸念されるのが、2021年、2022年の状況です。2021-2年は、政府からの支援も少なくなり、また、緊急事態宣言の度重なる発令や感染拡大による学級閉鎖など子どもの生活が脅かされる状況が長く続きました。学級閉鎖など子どもの生活の変化は、学力低下のみならず、体力低下や心理不安定など子どものさまざまな側面に影響しており、その影響はより経済状況が厳しく、また、ひとり親世帯の子どもにおいて大きいことが私たちの研究でもわかっています。すなわち、コロナ禍の影響は、経済面や食だけに留まらないのです。
こども宅食は、利用者のご家庭のさまざまなニーズに臨機応変に対応しています。LINEを活用した情報提供も前期の2倍以上となり、それらが具体的なサービス利用に繋がっていることもきちんと把握している点が素晴らしいです。多言語での対応も早く行政サービスが見習うべき点です。また、子どもの体験が不足していることに対し、コロナ禍でもできることを模索し、オンラインのレッスンの提供を行ったことは本事業の創意工夫が垣間見えます。食の支援から始まりながらも、支援モデルが次々と展開し、成長していることがわかります。今後の発展が楽しみです。
2022年度、文京区こども宅食事業が目指すもの
私たちは、今回のデータをもとに、引き続き食品のお届けをきっかけにつながりをつくり、見守りながら、必要に応じて地域の社会資源にもつなぐことを目指して、事業の改善・進化に努めてまいります。
2022年度も、ふるさと納税の仕組みを使って文京区こども宅食の運営資金を募っています。ご支援のほど、よろしくお願いいたします。
文京区「こども宅食」で親子の笑顔を守りたい。つながり、見守り、支えていく。
https://www.furusato-tax.jp/gcf/2245※こども宅食は登録商標です